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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

ネイド王子とれもんの花 〜3〜

一方で れもん王国では
腹ぺこ怪物サンダーがおおあばれしていました。

「がぉーがぉーぐるるるる〜」
「サンダーさまのお通りだぞ!」
「わしにも れもんパイをよこせい!」

その大きなこえに、妖精たちはおどろき
小さくあつまり、肩をガタガタとふるわせています。

すると
王国でいちばん太くてたくましい木、
レモニオ3世が 立ち上がりました。

レモニオ3世は、ぐぐっと力をこめて
するどいトゲをのばします。

チクチク!チクチク!

トゲはサンダーのお腹をつつきました。

「いててててててー!やめてくれ!
もぅ れもんパイなんていらないよー!」

カンカンにおこったサンダーは
「それならば!
いちばんピカピカで 
いちばんおおきなれもんパイを食べてやるぞ!」
と、さけぶと

れもん王国の太陽をぱくりとたべてしまったのです。

その日から、王国は光をうしないました。


その頃 
王国さいごのれもん、ネイド王子は
ピールにだいじにそだてられていました。

土の中のふかふかベッドで
まいにちぐっすりねむります。

ネイド王子がいちばんすきなのは
はちみつが入ったあまいれもんジュース

ピールはまいにち 王子のもとへ
そのジュースをはこんでいきました。

「王子さま 今日のジュースをどうぞ」
ネイド王子はにっこりわらってのみます。

けれど、すこしだけ泣き虫でもありました。

かぜがつよくふく日には
「ぼく ちゃんとおおきくなれるかな?」
「ぼく ちゃんとれもん王国にもどれるかな?」
と、ぽろぽろなみだをこぼしました。

するとピールは、やさしくいいました。

「だいじょうぶです、王子さま。
そのなみだも そのやさしい心も
きっと力になります。」

ネイド王子は ピールのはこんでくれる、
はちみつが入ったれもんジュースをのみたびに、にこにこえがおになりました。

そして

小さな芽をだし 
やわらかな葉をふやし
ぐんぐん幹を太らせのびていきました。

やがて、ネイド王子は、
だれもが見上げるような 
りっぱなれもんの木になったのです。

その木には、きらきらひかるレモンの花が咲き、実がたくさんなりました。

ネイド王子は、うれしくて 
また、少しだけ泣きました。

こんどのなみだは、さびしいなみだではなく
しあわせのなみだでした。


そこへ、光の鳥シトラがやってきました。

「ネイド王子、おむかえにきました。
いっしょにれもん王国へまいりましょう!」

シトラは、金色に輝く翼をいっぱいに広げました。

そしてネイド王子とピールをそっと背中にのせ、空高く舞い上がっていきました。


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 1

1970年のヴォルフ

 ただひたすら田んぼが広がっており、視界を遮る高い建物がないため開放的に感じられる。
 何もない。だからこそ何かに気付けそうで、夏休みに祖父の家に来るときは必ず散歩に出ていた。
 しかし今年に限って危ないからと引き止められていた。普段人の言うことは素直に聞く性格だからしばらくは大人しくしていたが、どうも我慢できなくなりこっそりと家を抜け出したのだ。畦道に立つ私の左側には、底の見えない濁った川があり、水流に合わせてどぷどぷと弾き出すような音が立つことからそれなりに深いのだと思う。一人きりで落ちてしまったら助かる気がしない。柵もないから気をつけなければ。
 右側には山があり、麓には続いているのかわからない店と墓地がある。
 そういえば昔、麓で石碑を見つけた。まだ幼かったからわからなかったが、今なら書かれていることも読めるだろう。
 山へ行こうと思い立ったとき、ガサガサと茂みから音がした。
 低いうなり声も聞こえ、何があったのかと振り向くと……。
「く、熊……!」
 落ち着け、熊なんて刺激しなければ襲ってくることも少ないだろう。音を立てないよう後ずさりしていると、うっかり地面のないところに足を踏み下ろそうとしてしまった。
 踏みとどまることもできず川に転落。
 泳ぎは苦手だから、川で熊をやり過ごす前に死んでしまう気がした。

 目を覚ますと、私は今まで歩いていた地面に横たわっていた。
 不思議なことに体は水に濡れていない。さっきのは川への転落を恐れるあまり鮮明にイメージしてしまっただけかもしれない。当然熊も見当たらない。
 とはいえ、石碑を見に行くのはやめにしよう。
 体の土を払ってから来た道を戻る。
 なんだか空気が違う気がする。説明できない違和感に首を傾げて歩くと、明らかな異常を発見した。
 村の農具置き場だったはずの場所に、大きな家が建っていた。
 そこから鬼気迫る表情の女性が飛び出してきて、何か大変なことが起きていることがわかる。
 悪いとは思ったが心を引かれて、崩れた塀を越え、他人の敷地であるその家に入った。
 そうして踏み入った庭では数多の動物の置物が横たわっていた。
 割れた陶器の破片に混じって紙切れが落ちており、気になって拾い上げる。
 ●●の恋人
 誰の恋人なのかは汚れていてわからない。
 ここにいる人たちはさっきから誰かを呼び続けている。それが●●だろうか。
 それは考えすぎか。
 散り散りにある破片を観察しようと腰を下ろす。陶器の台座を覗き込むと、世界中で忌まれているマークを見つけてギョッとする。
 この建物は私が考えているより危ないのでは……身の危険を覚え、去ろうとした。
 すると弱った犬が軒下から這い出してきて、その口には缶詰を咥えていた。
「君どこの子?」
 どこの子ってこの家の子に決まっている。外で見知らぬ犬を見つけた時の癖で聞いてしまった。
 犬は弱々しく鳴き、私のつま先に手をポンと乗せてきた。つま先に乗った小さな重みは、目の前の小さな命に対しての可愛さを感じさせる。
 犬の鼻先にあるのは、さっきまで咥えていた缶詰。こういった食べ物は好物だろうに、それを食べるでもなく咥えて持っているだけで、ただ遊んでいたか、取ったはいいが自分では開け方がわからず奔走したか。もしくは若干中身のにおいがする辺り、缶は開いてはいるが弱って食べる気力すらないか。
 犬は缶詰を弱々しく咥え直し、むにゃむにゃと歯応えに欠ける鳴き声を出した。
「さっき犬の声がしなかったか?」
 殺気を放ちながら捜索を続ける人々が近づいてきた。
 見知らぬ人間が勝手にいたら怒られるのでは?
 思わず犬を抱き、慌てて家を出る。
 崩れた塀を踏み越え、左へ走る。この方向に動物病院があったはずだ。
 あの人たちの声がしなくなったところで、一度犬を地面に下ろした。流石にそれなりの大きさがある犬を抱え続けるのは厳しい。
 ポケットに入っていた小銭で水を買い、喉を潤す。すると犬も喉が渇いていたのか、ペットボトルの水滴を舐めだした。
 器がないため手に水を注いで飲ませ続けて
いると、光に包まれ......。
「ありがとう。ここまでくればあの人たちも
 襲ってこない」
「......人!?」
 黒い短毛の犬は、毛色と髪色が同じな短髪の男性に変わっていた。他にも大きめの耳とシュッとした輪郭など、犬の特徴を残していた。
「僕は犬だけど、とある実験によって人になれるんだ。水が足りなくて変身できなかった
 から助かったよ」
 川に落ちたかと思ったら変な建物があり、犬が人になる。こんなおかしな状況の原因はそれかもしれない。
「実験、かあ。あのさ、自分は川に落ちたかと思ったらここに来ちゃったんだ。もしかしてその実験と関係ある?」
「実験とは関係ないと思うけど、心あたりはある。帰れる場所に案内するよ」
 あのとき連れて逃げてよかった。と、彼の協力的な返事に私は息をついた。
 彼が言う心当たりというのは山の麓で、ペットボトルを手に彼の案内についていくと、そこに辿り着いていた。
 ここには人の気配が全くなかった。見慣れた町があり、色あせていたはずの看板は鮮やかさを保っていたが、窓ガラスが割られている。
「やっぱり倒されている。まあ内容は覚えているからいいんだけど」
 あの石碑が根元から倒れていた。
「もしかして地震とかがあった?」
「違うよ、熊の仕業。人里に降りてきて暴れたんだ」
 石碑が折れるほどの力を持つとは.......あのとき熊に遭遇したことの恐ろしさがやっとわかった。
 彼は悲しげに視線を落とし、僕の飼い主が原因だ、と言った。
「僕の飼い主、すごくお金持ちだった。動物のことが大好きだったんだけど、どんどんおかしくなって、ヒトラーって人を崇拝するようになった」
 あの台座のハーケンクロイツはそういうことだったのか。
「犬と意思疎通できたら、犬も肉ではなく野菜を食べて生きていけたら。そんな風に考えて人間に変身する実験を繰り返し、成功させた」
 壮大な実験の理由は夢のあるものではなく、歪んだ思想だった。
「動物愛護の精神が歪んでいるんだ。考えなしに動物に餌を与えたせいで野生動物の数が増えすぎた。それで熊も麓に降りてくるようになって......人を襲うんだ。一昨年とうとう麓の住民が襲われて、命を落とした」
 その瞬間、割れた窓ガラスを思い出してゾッとした。
 刺激しなければ、なんて考えていた自分は本に馬鹿だ。
「僕たちは飼い主の言うことをよく聞いた。僕のお母さんはヒトラーの動物の恋人、ブロンディさながらに愛されていて、何もそこまでなぞらなくていいのに、自殺に使う青酸力リをお母さんで試そうとした。僕は青酸カリ入りの缶詰をひったくって庭に飛び出した」
 愛している、というのに青酸カリを試させるというのは理解できない。自分で死ぬのは勝手だが、まだ未来のある犬を道連れにするのは愛なのか?
「青酸カリがそれだけな訳がないから、結局お母さんたちは死んだ。遺された住民たちは、熊を誘き寄せるための餌にしようと僕を探していた。ということで、生き残ったけどもう疲れたんだ。僕を殺して川に投げ入れれば、元の世界に戻れる。それの効果は保証する、死にぞこなったりなんかしないよ」
 犬に戻り、口を開けていた。犬用の缶詰は開封されていたが、はめ込まれた蓋が中身を守っていた。
 私は缶詰を手に取り、見つめ……これを彼の口に入れると、彼は飲み込む……?
「そんなの嫌だ! 人のせいで恨まれて、殺されるのなんて……人に翻弄され続けて、君の一生はどこにあるんだよ!」
 缶詰を地面に叩き落とすと、背後からまたあの唸り声が聞こえた。
「まずい!」
 彼は人に変わり、熊との間に立ってくれた。
 それなのに私は間抜けなことに、缶詰を踏んで転んでしまった。
 そのまま川に転がり落ち、意識を失う……。

 目を覚ますと祖父の家の居間にいた。
「よかった、散歩から戻ってこないと思ったら倒れてたのよ!」
 目を潤ませた母が私の手を握っていた。
「熊が人里に降りてくる時代なら危なかった
 よ」
 穏やかな声がして、祖父でも父でもない男性がいた。白髪が混じり、シワが刻まれていたものの、あの猟犬のような凛々しい表情は変わらない。
 生物を殺して投げ入れれば、過去での行動を無かったことにして戻れる。自分がもう一度川に飛び込めば過去での行動を反映した状
態で戻れると、石碑には書かれていたという。
 彼は生きることを選び、熊退治という形で飼い主がしたことの責任を取った。
 熊を恐れず歩ける村にしてくれたのだ。

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傘傘


あ々
私の支柱が私を貫いて笹くれてく

あゞ
私が ゝ の字に折れ曲がって


あヾ
め く れ て






あヽ

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夏雲とバッシュ 最終話 解放

 数日後の午後、遼の自宅に、大きな段ボール箱が届いた。差出人は、加奈だった。

 リビングのテーブルの上で、遼は母親の見守る前で箱を開けた。中から出てきたのは、有名ブランドの最新のバスケットシューズと、質の良いメンテナンス用具一式だった。遼が以前、雑誌を見て「いいなあ」と呟いていたのを、加奈が覚えてでもいたのだろうか。

 シューズの箱の底に、一枚の白い封筒が入っていた。中には、加奈の几帳面な字で書かれた、短い手紙が収められていた。

≪これでお詫びになるとは思ってはいませんけれど受け取って下さい。もうそちらには姉さんに呼ばれた時以外には行きませんし、ばかにもしないので安心して下さい。ごめんなさい≫

「加奈ちゃん、どうしちゃったのかしらね。急にこんな高いもの送ってきて……」

 母親が不思議そうに首を傾げている。遼は何も答えず、手紙を静かに折りたたんでポケットにしまった。

 その日の夕方、加奈が遼宅に置いていった自分の荷物を整理するため、訪問してきた。母親がいつも通り家の中に通そうとしたが 、加奈はそれを固辞し、持ってきてほしい荷物を伝え玄関で待つばかりだった。

 母親に「ちょっと待っててね」と待たされて、玄関先にぽつんと佇む加奈の背中は、いつになく小さく見えた。

 加奈の訪問に気付いた遼は自分から玄関へと歩み寄った。遼の足音に気づいた加奈が、肩を強張らせて振り返る。彼女の目には、明らかな困惑が浮かんでいた。加奈はこの思春期の自我が芽生えつつある少年に対しどう接していいか、見当もつかなかった。

 しかし、遼は目をそらすことはしなかった。彼はポケットから例の手紙を取り出し、加奈の目をまっすぐに見つめた。

「バッシュありがとう。土曜、地区予選あるから。見に来て」

「え……?」

 加奈が驚いて目を見開いたが、遼はそれ以上何も語らず、すっと身を翻して自分の部屋へと戻っていった。手紙だけではお互いに前へ進めない。遼は、自分のプレーで自分を知ってもらおうと思っていた。

 土曜日。
 地区予選の体育館。観客席二階の薄暗い片隅に、加奈は身を潜めるようにして座っていた。視線の先には、真っ白な新しいバッシュを履き、コートの上を矢のように走り抜ける遼の姿があった。

 キュッ、とゴムが床を踏みしめる音が響くたび、遼は相手のディフェンスを鋭く切り裂き、シュートを沈めていった。その姿に、加奈は胸を激しく揺さぶられていた。
 汗を流し、高らかに声をあげ、真剣な眼差しで駆け抜ける遼。彼は自分が「可愛いおもちゃ」としていじり、からかっていい存在とはまるで違っていた。彼は今、まさに「大人」へ脱皮しようとする、成長の途上にある眩しい一人の男だった。その真っ直ぐで、そして張り詰めた、思春期の魂を、自分は「男だから何をしてもいい」、「滑稽」、「カワイイ」と無神経に弄んでいたのだ。

 加奈の脳裏に、かつての自分自身の記憶が蘇った。自分にも、遼や尋のように、ただ純粋に、ひたすら前だけを見つめて何かに打ち込んでいた時代があったはずだ。人の境界線を侵さず、敬意を持って他者と向き合っていた、美しく澄んだ時間。いつの間に自分は、それを忘れてしまったのだろう。自分がしでかした行いのグロテスクさに、加奈は今さらながら観客席で静かにため息をついた。

 コートの端には、ショートカットの尋も立っていた。尋は、シュートを決めて胸を張る遼に対し、対等な相棒として大きな拍手と熱い声援を送っていた。そこには、大人の無遠慮さでは入り込めない、互いを尊重する「二人だけの距離」が存在していた。

 勝利したのは遼のチーム。
 遼は両チームを通じてのリーディングスコアラー(得点王)となった。

 試合の数日後、母に呼ばれ再び遼宅を訪れた加奈の前に、遼はまた自ら進み出た。

「これ、すごくよかった。だから…… ありがとう」

 遼は自分の手元のバッシュを指し、冷静に、しかし一人の男としての凛とした声で言った。

「それと…… もう二度と僕をバカにしないでね。あと、『セクハラ』をしないって約束して。どうせ母さんの方からがまたしょっちゅう呼ぶんだろうし」

 加奈は目を見開いた。 遼の口から「セクハラ」という言葉がはっきりと出たこと。静かな主導権を握り、ルールを設定した上で「うちに来てもいい」と許可を与えたこと。その遼の毅然とした大人の態度に、加奈は彼がもう自分の思い通りにからかえる子どもではないことを、完全に理解した。

 加奈は喉を詰まらせるようにして、小さく、しかし真剣に頷いた。

「……うん。わかった。約束する」

「じゃ」

 遼は短く告げると、自分の部屋に戻り、窓を開けた。 外から流れ込んでくる風は、あのきついシトラスの香水ではなく、乾いた初夏の匂いがした。

 窓の外は屋根の隙間から見える青空に積乱雲。ベッドのわきにはその雲と同じ色の白いバッシュ。

 これでもう、玄関のチャイムが鳴るたびに、憂鬱な思いで逃げ道を探す必要はない。
 自分の領域とその境界線は、守ることができた。遼はベッドの上に身体を投げ出した。 ——やっと、自分の家にいても解放された。そう確信できたのは、彼が十三歳になってから、本当に初めてのことだった。

 白い雲が誇らしげに夏空に立ち昇っていた。


                                 —了—

※カクヨムに投稿する前にこちらに投稿してみようかなあ……と。
人によっては反感を買うかもしれない内容だし、ためらわれましたが、やってみます。

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 2

 5

E線上を、趟る。

少女の日は
しろい木綿の靴下をはき
かすかに冷たい弦に
ただ、ふれるだけで
歌が拡がった

​あの頃の私は
どこへ失せたのか
​いま指先が探るのは
弦の表面じゃなく
皮膚の裏にこびりついた
古びた擦過傷の痕形

​E線の繊い金属が
爪のあいだをきしきしと擦る
纎く、尖り、弡りつめた絃

あの日、詞になる前に敝れた
薄い幕の裂け目のように
暖かい朱が
記臆の底から涁みだしてくる

​純白だった指兟は
もう二剫と
あの無垢な音󠄁色を響かせない
慯​口を辿るように

E線上を、趟る。
歪んだ共鳴を轢き鳴らし
痛みの分だけ、生きている。

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八月九日

午後になった
扇風機をとめて
水を届けに出かけた
ひび割れた路面と短い影
歩く時も俯く癖があった
草刈の辺りで風鈴売りとすれ違う
音、聞いたのだからお代を、と
干からびた掌を差し出してくる
俯いたままでいると風鈴売りは
何も取らずに去っていった
途中、何度か水をこぼし
我慢できずに口をつけ
着く頃には半分ほどに減っていた
逃げ水か
と主は言った
冗談なのか本気なのか
終始、顔を
上げることが出来なかった

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 4

砂原の浮草

砂原の浮草に花が咲いた
循環バスの窓を開けて
その様子を見ていると
返事のような風が
耳たぶに軽く触れる
祖父はかつて
西洋菊を育てていた
祖父のことは好きだったけれど
大事にしていたその花を
わたしは一度も
綺麗と思ったことはなかった
それよりも
裏口で微かに響く靴音が
月の形をしていて
深呼吸をすれば
消えていってしまう
そんな儚さに心を奪われた
風がそうしたように耳たぶを
自分の指で触れてみる
触れたはずのものは
いつもどこにもなくて
いずれこの耳たぶも瞼も唇も
わたしを離れていってしまう
降車ボタンを押す
浮草が浮草でいられるよう
いつかこの砂原にも
雨が降ればいいのに
祖父をおじいちゃん、と
呼んでいたわたしは今も
祖父の名前を知らない
多分このまま
ずっと知らない

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 5

 4

全てがあなたに優しい

静かに 
いくつかの 
切り替わる情景 
共にしてきて 

私たちは 
生きていた 

どんな時も 
したたかに 

人というのは 
本当に生きているだけで 
奇跡だと思うのです 

ここにあなたがいる 
ここに私がいる 
その事実に 
私は涙ぐむ 

もうそれだけで 
良い 

別れても離れても 
生きている 

その事実だけで 
もう良いのです 

ありがたい 
あなたを生かす全てに 
私は感謝する 
ありがとうと 
私は感謝する 

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夏涼み

木陰にそっと腰を下ろした
それだけのことで
世界は構築されていた

風がそっと吹きかけて
それで髪がさらりと揺れて
人生をそこに見出した

さらりと落ちるは黄色い葉っぱ
それが遠くの世界に
ただ静かに飛んでいく

それだけの光景

そこに魂の意味があった

https://i.imgur.com/ffsUQMs.png

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 2

この半月



たえまない懊悩の生活が始まった

     船の消息は現実とまるで違う

          青年は家に蝋燭を取りに行く

例の話は数珠そっくりで
 馬鈴薯を添えた七人が
  ひそひそ話しながら無慈悲な不正を行うのだ
翌日の午後一時頃に食卓についた

わたしは死体の出来上がりを点検し

     震え声で林檎酒を呼ぶ

          子羊のにおいが満ち溢れる

寝床に入ると妄想の状態が始まった
 村長が新郎新婦を奇病にさせ
  手にフォークを握ったまま市場に歩いて行った

あの思念を放擲することはできない

     ベッドは皺くちゃで痛みは引かず

          無頓着にミサだということで

               金を取られた

自分の腹を眺めながら聞き耳を立てる
 スープを哀願し怒りが爆発した
  これ以上、腕白小僧を幸福にするな!
   せっせと移動して日曜日に糊を塗る
    中庭の木戸が開き蝋燭に囲まれる
     だんだんと独占されていく頭のなかの糸屑
      雪明りの仄かに白い食卓

長椅子から立ち上がり三羽の牝鶏を捕まえる

     世の中にはにこにこして
    
         階級制度について話す人もいる

欲情しながら顛末を話した
 忠実な羊が布団をめくる
  「コップ一杯の水に糸屑を入れて手紙を書く」
   疑いの眼を向けていたが
    やがて初めて半月経っていると気づいた

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金貨と目薬 5

<それぞれの思い 1>
深水に編集長にプレゼンをするのに専門的なコメントが必要と成った時の為に同行して欲しいと言われて
武内は出版社のロビーで待たされていた。
小一時間ほど過ぎ場違いに感じて受付の女性に伝言をして外へ出ようかと思った時
深水がラフな格好ながらも、どこか風格の様なものを感じる男性に武内を示して笑顔で話している。
「初めまして、深水君と仕事をさせて貰っている米田 浩二と言います。」
名刺を慣れた感じで差し出しながら、武内が名刺を受け取ると握手を求めて来た。
武内はつられて握手をしながら、この人が編集長なのかと思いながら緊張で顔を強張らせていた。
「僕はジムでトレーナーをしています。武内 達也と言います。名刺を持っていなくて申し訳…」
戸惑う武内を制する様に米田が「武内さんの名刺はマネージメントしている深水くんでしょ。」
米田の言葉に戸惑う武内をカメラマンに紹介してレンズ越しに色々とチェックされた後で
「映え的にも問題なさそう、いや失礼 下手なモデルより魅せられる。
それでは、加賀見さんを入れての3人での話しが纏まったら撮影とコメント取りお願いしますね。」
そういって深水と武内を置いて降りて来たエレベーターの方へと去って行った。
「おい、琴李どうゆう事だよ。」武内の動揺などお構いなしに武内のマンションへと帰ってゆく深水だった。

武内は自分の部屋に帰ってからも考えていた展開との落差に、どう文句を言っていいのか混乱している。
そんな武内の気持ちなど気にしていない様に打ち合わせの日時を決めるために深水は
「陵介、投資なんて遊びはやってないでしょうね。それから、今 受けているデザインの仕事が一段落したら
時間を空けて欲しいから落ち着いたら連絡を頂戴ね。」と加賀見に留守電を入れた。
加賀見に留守電を入れている横で複雑そうな顔をしているのが武内だった。
「どうしても、加賀見さんと顔を合わせてのミーティングが必要なのか?
加賀見さんも忙しいだろうし…水面下の三角関係…いや、これは関係ない」
夢の前では深水にとって、もう武内と加賀見はトレーナーとお客ではなかった。
「達也なら解るでしょ。人と人の間に流れるリアルな空気の大事さを
それにね、今回の企画で成果をみる事が出来たら夜の仕事を辞めて
私も前に出てゆこうと思っているの、自分が創った流れに触れる為にね。」
野望を露わにして語る深水を武内は好きだった。自分にしか見せていないと思える深水の姿が
「夜の仕事を辞める事は賛成だし嬉しいけれど、琴李が少しずつ自分を必要としない存在に成ってゆく様な気が…」
少し弱気な武内を見る深水の目は女ではなく、ましてや母でも無かった。
「ねえ、必要って何?自分が欲しいものをちゃんと見なさいよ。
追い求めるものは形が違えども欲しいものは同じじゃないの?」深水の言葉が武内を更にえぐる様に突き刺さって来た。
「琴李は強いな。俺のメンタル・トレーナーだな、解った 流されるのでなく流れに乗れるように頑張る。」
携帯に入った加賀見からのメールを読みながら武内の言葉を聞く深水の顔には女が戻っていた。
「陵介が3人で会う前に話したい事があるとメールして来たわ。陵介も私に何か言いたいみたいね、
あなた達二人は、か弱い私を支える騎士であって欲しんだけどな~」
目の前の女が魔女と知りながら自ら身を捧げる自分で良いと
深水の言葉でなく唇の動きが止まるのを待っていた。
加賀見さんも同じく心を鎧で守っているのだなと感じ安心した顔つきで武内は
「打ち合わせの日時は二人に合わせるから決まったら教えてくれれば良いよ。」
武内の言葉に深水の顔には娘に送り出される父親の風格さえ感じられた。
「夜の仕事を辞める話しを店ともしないとだし、出来るだけ私の都合に合わせて貰うと思う。
もちろん出来るだけ余裕を持たせるからスケジュール調整を宜しくお願いね。」と言い
簡単に身支度を整えてコンビニでも出かける様に加賀見に会いに出て行った。
行くな、行かないでくれと言えずに見送る武内は底なし沼へと変貌する足元へと心が沈む思いの中で
深水との絆を実感出来るものを持ちたいと地獄に垂らされた蜘蛛の糸に縋り付くかの様な姿は
スポーツジムでのトレーナーとしての逞しい容姿とは懸け離れたものに感じられた。

           
              ~つづく~

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月だけが

ブラックボックスにしようとした私の気持ち
月だけがずっとみていた

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かけひき

『すぐにメッセージを返さない』
昔流行った小手先のテクニックに
翻弄されるくらいには
あなたが好き

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 1

 4

おおきな女の子とちいさな男の子

雨上がりの公園で

風に飛ばされた傘がいっぽん、木の枝に引っかかっている

おおきな女の子は
ちいさな男の子のものだとしり、そっととってあげた

おおきな女の子はたかいところに手が届く

たなの上にも

木の枝も

背伸びをしなくてもさわれる

ぶらんこのいすもじょうずにすわれる


ちいさな男の子は

たかいところに手が届かない

とびはねても

せのびをしても

届かないものがある


でもちいさな男の子はしっている

かなしい人の心や

かなしみの人の声や

やさしい人の心や

愛してくれる人の心や

愛する人の心は

手では取れないことを



だから ちいさな男の子は

だいじにだいじに心をもっている




手が届くことも すてき

心が届くことも すてき

心が通うことは もっとすてき

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植物人間



植物人間とは 悲しい言葉
血が逆流するよな
出来事の先にある 言葉

そこまでして
自分とは 違う者を
傷つけたいらしい

そんな人々の前に
木は聳え立つ
木は 血のことを知っている

ホモ・サピエンスのことを 知っていて
やわかな葉を 私にさしだす
わたしは 植物の人間になろう

人間は 
どの人も
おなじだよ

そして
葉のように
指さきを ひとつづつ広げる

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 2

 4

小さな自責の念

扇風機がカタカタと鳴る
私はその横で良かったこと日記を書いている。
カタカタと鳴る扇風機は
良かったことになるだろうか
明るいものになるだろうか

運ぶときに面倒くさがって、
動いているのに頭を持った
せい
かも
しれない。

その小さな失敗を
明るいものにできるだろうか

まだ、明るいものに出来ずにいる

カタカタと鳴り続ける

良かったこと日記の手は止まる


誰か誰か扇風機がカタカタと鳴ることを
笑い話にしてはくれないか
小さな小さな自責の念は
毎晩毎晩聞こえてくる

アイリスオーヤマの右にも左にも上にも下にも斜めにも動ける凄い奴なんだ



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 4

廃屋に



 蒼い大空 
 だった

    帰るだけの家
    ふるさとの ただ
    それだけのち ち
    なにもかも 
 かぜと 
    あめと
    ひと
    だった

    空はかなしみか
    かなしいと
    よぶべきものか
    おもうべきものか


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寝子

西日差すソファーの上で丸くなり
おめめ隠してすやすや眠る

ときどき尻尾を振るわせて爪を出し
何の夢見る白黒毛玉

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愛している

愛していると言葉にしてみた




不図 恥ずかしく成り
周りを見回してみた

誰も聞いていないのか
自分の存在に興味を持つ人は居なかった
安心する気持ちを寂しさが包み込んでくる
味わった事の無い孤独に吸い込まれそう

僕は誰を愛しているのだろう
僕は誰に愛されているのだろう

煩わし人間関係から逃れる様に
静かに広がり包み込む様な孤独に身を委ね




もう一度だけ
愛していると言葉にしてみた

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でかちんの歌(2025/08/08)

ちんこがでかいと言われて早10年。森では小動物たち(リスとかウサギとか)の昼寝に使われる枕になっている。特に困るのはハリネズミで、丸くなるのはいいけど針が痛いんだ。少し経つと皆ありがとうと言って去る。村では歌が生まれた。子どもたちはキラキラした瞳で歌い、大人たちは意味のなさに安心し、僕はひとり空を見上げていた。

♪でかい でかい
 理由はないけど でかい

Googleマップを表示したスマホを片手に迷い込んできた旅人が言う。
「すみません、ここ……山ですか?」
「いいえ、ちんこです」
「ドクドクと脈打っているのは何ですか?」
「自然現象です」

やがて学者が来て、測ろうとしてやめた。
――測定とは敬意を欠く行為だ、と言い残して。

ちんこがでかいと言われて11年目の夏。

♪でかい でかい
 理由はないけど でかい
 雨の日も 風の日も でかい

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【詩】戻れるのなら

もしも あの日に 戻れるのなら
一眼レフを 首に下げ
枝垂桜を 撮る君の
背中についた 花びらを
つまんでそっと 剥がした時の
気恥ずかしさを 感じたい


もしも あの日に 戻れるのなら
海水浴の 帰り路
磯の香りと スピッツが
くゆる車内に 差す西日
揺れる身体を 母に預けて
家に着くまで 眠りたい


もしも あの日に 戻れるのなら
色づき始めた 葉を集め
薪と一緒に 起こす火に
チームメイトと 向かい合い
来年こそは、と たぎる闘志に
輝く星を 見つけたい


もしも あの日に 戻れるのなら
双子の兄の オススメで
買った ミステリ小説を
炬燵の中で 開いたら
そのまま一気に 読み終えた後
面白かった、と LINEしたい


どうせ 過去には 戻れないけど
戻りたい日が あることは
か細い息で 生きる私の
今の支えと なっている

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犬釘





  伸び放題になった 鋭く 青臭い草が覆う
  砂利石だらけの道を 人知れず 野犬たちがやって来る
  線路脇へと入り込み 打ち捨てられた 鉄の釘にありつく

  次の駅までの空の下 ポピーや菜の花が咲き乱れ
  そよぐ風に 紋白蝶や揚羽たちが舞うららかな季節
  のどかな風景の中へと 彼らが向かうことはない

  バラストに鼻を突っ込み うろつき回り 
  埋もれるようにしてガリガリと 歯を立てる
  鉄路を外れ 弾き飛ばされた 
  錆にまみれた一本の釘を

  風雨にさらされ歳月が過ぎた
  舐め 齧りつこうとも
  固着する時間ごと食らい尽くすことは容易ではない
  人知れず 
  どこへともなく消えていく

   夜の遠く 鼓動のように 重く 低い残響を響かせ 
   バラストを弾き飛ばし 乾いた笛を鳴らす 
   義務と責任 信頼と誇りとをまっすぐ 
   吠えるものたちをかき消し列車が走っていく
 
  散らばる線路脇の 
  緋色の鉄の釘は骨ではない



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血縁

あなたのよくが

わたしのにくを

つくりました

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ちらばって


でおわる
ことばがすき

つないで
いたいから?
ことばにするのは
やぼなことことばかり

くすぶる もや
ちらばって

ほしとぼしに
なれたら
しあわせだね

そういって
はなれていって

ちらばってちらばって
て、て、ててててて

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ふと

Xと言うSNSで
みかけた

「子どもの豚はかけるけど
大人の豚はむずかしい」

べたりぬるりぢリリ

おもった

きっと
詩にかくなら

こどものほうがむずかしい
おとなのもとのすがたなはずなのに

いやいやいやいやいやいや
どうだらう




ふと が

とわに るー.ぷ

こわいから ぶちきるために

へやのでんきを 

ぶちっ つぶやいてから

消した

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「Planetarium」

  空の瞳は 水底に
  果てのない、とうめいの
  何処まで行っても辿り着かない
   雲の狭間に

https://i.imgur.com/hace9jt.png

  空、よく晴れた
   日の

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浄罪、いいや 冠水。

永遠とはなんだろう
『銃槍 血痕 轍 焼跡の花だ。』
『夢幻の内にいる水平線には、
ひどくきたない月影は残存している。』

小枝をたたむ 河原になって
氷が覆う 心臓の周りを
何周でも血が循環する

もうすぐにみらいと手にかけるのに
億劫にも見送るような真似を施された
にごりのおとよ。

(キミではないな。)
足を投げ出して
/ただ酔わせて
/あわさった影が隠される。

あのてこのて(が)ちらちらとくるおしい(ので)

うしろからがくりと頷かせて
空いた口が閉まらないくせに
くちびらはこんなにも熱を銜えさせるのだから

肩から釘を打ちつけ
背に花束を拵えたまま
駆け上がることが
難しくもなく
恥ずべきことでもなく
靴紐が解けただけだよと

〈冠水の命日 置き去りにした一頁〉

積荷を降ろしたあと 焼失した夜光虫の
金色が 今を今を浮遊しつくす
/くぐもった声で
/濡れそぼった顔で
/火照った躰で

ふらふらと溢れ出るばかりの 無法地帯の雨が
ほんの刹那を台無しにしたけれど
水車は他意のない 異音を発してはいた

終わりを嘆いた。漂着した小さなひとみだ

ちいさく震えたけれど背負い切れるわけでもない

砂の器だ

幾多の山々を越えた少しの荷物が、更フけ
少しずつ輝きを喪っていく
零れていたのだと気付いたときには遅く
火は消えようとしていた。

(あきをみせたばかりの ひととせをころす)

 ・片足
 ・細腕
 ・碧眼
――戦慄くは口吻
   すげ替えるように
   片っ端から
   罪もないヒトビトを
/鼻先に突きつける荒廃は膿んだ
/引き延ばせない鉄槌は波に餐まれてしまった
/胸懐を超えたしがらみは、大海原の半島に置き去りにした

〈いまごろキミは どうなって しまったか〉

無垢な躯のまま、
ボクは添い寝していたい。
足掻いた挙げ句、浮腫ムクれた外皮が剥がれ、
線虫で着せられた真っ白いはだかを晒して、
物言わぬ眼孔から はにかんだ緑児が生まれてくるのを
狂ったように見つめていたい

のぼせたような木の葉が反射的に降ってくる
千切れ雲から
それを飛び越えるような光が ちりちりと
瞳を焼いていくのを、なによりも
澄み切った 象牙色の骨が
怨めしげに広がっていた
不透明に羽ばたく、みどりにとけてみせて


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「あたし」



由緒ある私と
決別するあたし

当たり棒咥える
奇抜な毛並み
まつ毛を束ねる
でっかい水玉リボン

足を挫いた夜中のダンス
秘密基地にて一人芝居

キャラメルの苦いとこ広がる
迷い込む森は抹茶パウダー

隠れるあたし
硬い帯を噛みちぎる
にせものは私

未知と拒絶
惑星の衝突
銀河の誕生日

きっと自転するクリーチャー

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向日葵

抜ける青空の下にたったひとつ
太陽と反対の方角を見上げて咲き誇る
背の高い向日葵がいた
その晴れやかさたるや

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[り]リリカルであれ

言葉であり 体操である

胎動であり 祈りである

逆境であり 順境である

宗教であり 殉教である

太陽であり 星である

未来であり セピアである

小さな女の子であり ナイフである

花であり 電脳である

ミッドナイトであり 日常である

簡単なことであり 迷いである

黄昏であり はなむけである

言霊であり 系譜である

嘘であって 希望である

救いであって 忘れ形見である

不遜であって 隷属である

創造であって 想像である

命であり 虚無である

蝉の抜け殻であり 越冬である

リリカルであり シニカルである

神であり 私である

きっとそんな毎日を綴っている。

ちゃんと全て身体で綴っている。

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Unreliable narrator

夜は
青い宇宙の牙からしたたる血の匂いで
泣いている十歳の子どもと
薬は飲んだのかと彼に訊く母親の眠りの
抑圧と安らかさの時間
パズルピースの描かれたTシャツや
ピンバッジや育児ブログや
そういうものが少年を壊していく
よい子よ 実存に解釈が先立つとき
人間はばらばらになってもよいのです

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火の鳥

全てを喪った夜があった
世界から色が抜け落ちていった
空も地面も家々も
見つめる自分の掌さえも
灰を被ったようにみすぼらしかった

私はあてもなく歩いた
悲しかったからではない
この場所には未練があったのだが
ひとところに留まって居られなかったのだ

道を進み 坂を登って
ひび割れたトンネルを抜けた
見えてきたのは灰色の丘
色素の無い葉がさらさらと揺れていた

なだらかな斜面には
一本の枯れ木が生えていて
枝に火の鳥が止まっていた
世界は色を忘れてしまっていたから
翼に輝く飾り羽根も白黒だったが
紛れも無くそこには火の鳥がいた

甲高い鳴き声に魂が震えた
音が歌となって
冷えていた心を包んでいく
今までに貰ってきた愛情を思い出していた

鎮魂歌を聴きながら
次は此処に咲く花になりたい
そう願った私の意識は
細く 長く
糸のように伸び
最後は見えない線になって消えた

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短歌四首

この指が
こころとからだを
観る夜は
月に照らされ
風に吹かれて


朝霞
流れる光
身に映し
滴る先に
芽吹く翠


潟の間は
残る潮に
映る星
満ちては揺らぐ
軌跡残して


雷鳴が
揺らすこの胸
手を当てて
吹き込む風に
声を忍ばせ

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暑中へ一発お見舞い申し上げます ーー 短歌十一首 ーー

暑中へ一発お見舞い申し上げます ―― 短歌十二首 ――


笛地静恵



暑中様お元気ですか顔へ一発お見舞い申し上げます



酷暑日は生きてるだけでめっけもんひそかな熱い息をしている



だくだくと汗だくとなる夕ぐれのいいだくだくと駒をならべて



ものみなのしずまりかえる炎天をウーバーイーツ オーパーツまで



雪女とけるがままにかきごおり銀のスプーンことりとなった



体温を超える午後には肉を脱ぎ骨だけとなり涼むのもあり



決戦は夜へと移り球児らのバスは早朝郷里へ帰る



アスファルト溶ける匂いのむうらむら犬は肉球スタンプを押す



じゃぶじゃぶの湿気かきわけクロールの白クマさんが船を漕いでる



性格と日傘の影を背負いつつ大腿骨は切れていますか



日没に起きて働く夜型のサマータイムを提案します



ジリジリと蝉しぐれ焦げ雑草の歌の熱さに負けぬ茂りを





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永久発電機

〈人類の希望〉
を見学したのは
九歳のとき

街に聖火が灯された
あの日のことを
作文に書いた

ロシアの文豪たちが
匍匐前進する
迷彩服をいっぱいに着込んで
酸っぱい沼を進む
パン工場の方向から焼けた匂いがする
銅のさびしさが
骨身に沁みる

(僕らはゴジラみたいに吠える)

十字のマークを貼りつけた
八本足のロボット
開かずの扉を開けると
オガクズのにおいがする
見なかったことにしたい魚が
壺の底を這いまわっていた
哺乳瓶が溶けていくのが見えた

(僕らはゴジラみたいによろよろ歩く)

街に聖火が灯された日の記録を
ノートに書き留めた

(先生、書けたよ)

どうやら
燃焼が止まらなくなっている

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鬱に終身刑いいわたせば

やるはずだったこと置いていったせいだ。僕の中心は重力に取り残されて、こころのうらに汗をかいて、涙がおりこうに左目から、右目から流れて。



背中がすべるようで、近いものから歪む遠くのものを必死に見ようとしていたことを思い出して僕は息ができなくなりました。
己の罪の影に胸から落ちたら、何も変わらなかった僕がまた影を踏むだろう。





何者にもなろうとしないくせになりたがった。
帰れと心の出口を閉ざしても、かいた冷や汗から罪状が流れ出して増えて帰れなくなる。


傘立に足を乗せてみたらどうだろう。狭まる廊下で過呼吸になった僕を誰が救うのだろうか。Drifterを聴いて涙を流す僕をだれが見つけるの?


2つの鉄の棒に顔を押し付けて、流れ出す涙がきみと離れたくないと喚く頃に、僕はようやく疲れて眠ることができるだろう。

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負け惜しみ?


斜め斜めに進んだから
真っ直ぐに進んだ人と
同じ高さに行くには
時間と距離が多くかかってしまう
あと少しが踏ん張れないから
斜めに行ってしまうのだろう

でも斜めには
斜めなりの景色があって
長く歩くから
その分多くのものを見たりして
それはそれで悪くはないと思うのは
負け惜しみというのかな

でも世間では圧倒的に
斜めの人のほうが多いから
分かり合える人が多いということ
それはそれで悪くないと思うのは
負け惜しみというのかな


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ふち

塗りつぶした円の中身をのぞく衝動に身を投げて。



ぼくがやった。横から君が見てる。

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幽霊

せめて布を乾かして
けれど白く濁ったベールに幽霊
きみ、そんなところにいたんだね
影を踏み潰していたんだ、あわれ

せめて跡形もなく弔って
けれど、まちがえるくらいならあまえるでしょう?
きみ、うまれたときから透明な拳銃を抱えて
夏を殴って、わたしをころした

せめて硝子を砕いた幽霊の血液に同情して
けれどおまえは涙をぬぐうみたいにカーテンをあける
それだけで夜はおわるのだから都合がいいな
夜にとって、おまえはなんでもないのに

せめて夏を冷まして
けれどほんとうは、わたしあたたかいのよ
熱の存在を許さない膝に針金を通したカラダのない
かさかさの幽霊

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撫子

下手な影を見つめ、
怯弱な僕を悟られないよう、
厚手の白を握ります。

乾いた喉から
絞り出した拙い俺のありったけは
やけに温かくなった空気を揺らして
いじらしくどよむだけで。


やっと響いた円い声は、
君の声でした。

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毛刈り牛

牛の背中の毛を刈る。

そよ風に
吹き湧き上がる
牛綿毛

暑い夏。暑さに弱い牛たちの背中の毛を刈り上げていく。
黒毛和牛の毛は灰色がかった黒い毛で、暑くて汗で濡れている。

汗に濡れ           バリカンで
刈りて乾きて         刈り刈り上げる
冷やし牛           牛背中

汗をかき。それで冷えて夏風邪を引く。
涼しくなって早く治れ。

刈り上げて
色少し淡く
涼し牛

牛は半目になって、溶けていく。
刈り上げた背中が涼しくて、眠くなる。

寝ぼけ牛
草を食み食み
夢の中

そんな綿毛が、タンポポと混ざりあう。

タンポポと
牛の綿毛が
空の中

タンポポの綿毛は、種としてその土地で芽吹く。
牛の綿毛は、ただなくなっていく。
この重厚な存在感さえ。

飛んでいく
消えていくのか
牛綿毛

叶うなら
共に芽吹けよ
綿毛たち

飛んでいき
何を遺すか
綿毛たち

牛もタンポポも、昨日も明日もなくこの一瞬を咲き誇る。
あれこれ煩悩する、我らが思わず感傷に浸る。

空の下
色はにおへど
ちりぬるを
何はあれども
花咲け命

牛たちは涼し気な扇風機の下、重なり合って寝むりつく。

全力で
花咲くよな
夏の牛

綿毛たち
歓喜するよな
つむじ風



刈り続け           牛のため
未だ終わらぬ         未だ終わらぬ
牛毛刈り           仕事かな


気が付けば、牛。

「どうしたの?」
近くにいたか
牛の顔
大きくなれよ
反芻し
苦悩なくあれ
刈り上げ牛

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おれたちも元気がないので

「ねえ」
「うん」
「おとうさんはさ、猫がすきでしょ」
「はい」
「犬は?」
「縁がなかったな」
「飼いたいとはおもわない?」
「口を開けっ放しのイメージ」
「イメージね」
「元気いっぱいな感じがなあ」
「嫌いなの?」
「最近人んちの犬を触ったけど、毛がガサガサして」
「好きそうじゃないよね」
「突然ワンとか大声だすし」
「だから飼っちゃだめなの?」
「やっぱりニャーと鳴いてくれないと」
「くれないと?」
「モフモフしたいし」
「それはあたしもそう」
「元気がない感じの生き物のほうがいい」
「それもそう」

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ふゆ

  


    ぶるぶる
    ふるえながら
    つめたくなる
 
    るびを
    ふり
    ながら
    ちぢこまる
    わたしの
 存在
 らしきもの
  
    ひとは
    ひとを
 たとええない
 ものの
 ことば
    で
    るび
    を
    ふり
    るび
    に
    ふる
    える
    ものとして
    かたる
    みず
    を

      

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夏雲とバッシュ 第5話 その足で立つ

 加奈が尋と対峙していたその頃、遼は必死に街を走り回っていた。 加奈の言葉にショックを受けて走り去った尋の後ろ姿が、脳裏から離れなかった。こんなことで絶対に失いたくなんかない。その一心で、尋が行きそうな場所を必死に探し続けた。だが、どこを探しても彼女の姿は見つからない。焦ってLINEを送り、何度も画面を見つめたが、既読すらつかなかった。

 すっかり日が落ち、夜風が流れ込む公園。 遼は人気のないブランコに腰掛け、チェーンを握りしめたまま途方に暮れていた。

 ブランコの軋む音が、静かな公園に寂しく響く。 遼は暗い地面を見つめながら、自分の愚かさと、これまでの窒息しそうな日常を思い出していた。 加奈に全幅の信頼を置いて頼りにしている母親に、余計な気を遣わせたくなかったのだ。
 遼が赤ちゃんのとき、育児に追われる母を大いに助けてくれたのが加奈だった。小学生の妹も加奈にすごくなついている。さらに、父親はいつも書斎にこもって動画を観るばかりで、家庭内の会話に全く関与しない。女だらけの家庭で、遼は完全に「四面楚歌」の孤立無援だった。

 放置しておけば、加奈は「お宝本捜索」と称して、遼の部屋に笑いながら突入し、私物を漁りかねない。そんなプライバシーの危機から自分の尊厳を守るために、遼の「物品隠匿術」は中学生とは思えないほど格段に上昇していた。 そうして日々、必死の防衛線を張りながら、笑顔を作って「良い甥」を演じ続けている自分自身に対する強い嫌悪感が遼の中に渦巻く。たまらなく惨めで、汚らしい思いでいっぱいだ。その思いが常に彼の心を内側から削り続けていた。
 そして挙句はこの始末。
 尋を巻き込んでしまったことも、結局は自分がその「偽りの良い甥・良い息子」を拒絶しきれなかった弱さのせいではないか。彼はブランコのチェーンをきつく握りしめた。

「くそっ」

 遼は吐き捨てると、再び尋の捜索に向かおうとした。行く当てなんてない。でも、自分のこの手で探し出さないことには気が済まなかった。

 その時、ポケットの中でスマホが短く震えた。 遼は弾かれたように画面を開いた。尋からのLINEメッセージだった。

≪返事遅れてごめん≫

 遼は冷えた指先を動かして、急いで文字を打ち込んだ。

≪こっちこそ俺のせいでごめん。今どこ? 大丈夫?≫

 少しの間を置いて、尋からの返信が届いた。

≪駅前。さっきまであの叔母さんと会ってた≫

 遼は息が止まった。会って一体どんな会話をしたのか。まさか二人が意気投合して、自分のことを悪く言っていたのではないか。
 そう思った瞬間、尋の人となりを疑うようなことを考えた自分が恥ずかしくなり、耳が熱くなった。彼女はそんな人間じゃない。手強い敵であろうと無能な味方であろうと、彼女の口から他者を貶める言葉を、遼は一度も聞いたことがなかった。

≪会ったって、何の話したの?≫

≪ごめん、それは言えないかな。でもとりあえずあたしはスッキリできたかも≫

 ということは、きっと自分に関する話をしていたのは間違いないだろう。そしてこの言葉と尋の性格から考えれば、きっと良い結果を得られたのだ。そんな口ぶりだと遼には思えた。

≪そうか≫

≪あとは遼がちゃんとあの叔母さんと話すのね。話せばわかる人だと思った≫

≪わかった≫

≪うん≫

≪ありがとう≫

≪なにが?≫

≪きっと気を遣わせた≫

≪そんなことない。あたしは言いたいこと言っただけ。変な勘繰りしないで≫

≪わかった≫

≪じゃね、朝練遅れないでよ≫

≪余裕。尋の方こそ≫

≪あたしも余裕。おやすみ≫

≪うん、おやすみ≫

 メッセージのラリーが途切れ、画面が暗くなる。 遼はブランコから立ち上がり、ポケットの中にスマホを滑り込ませた。 胸の奥に、ゆっくりと熱い灯がともっていた。
 尋は逃げ出したのではなかった。十三歳の子供にとって、三十歳の大人の前に立って対等に言葉を交わすことが、どれほど恐ろしく、どれほどの勇気がいることか。尋はその震えるような恐怖を乗り越えて、自分のために加奈と直接向き合ってくれたのだ。そして、「あとは遼がちゃんとあの叔母さんと話すのね」とパスを回してくれた。それは、遼のなかに眠る勇気を信じ、自分を一人の対等な人間として扱ってくれた、尋からの静かなエールだった。

 尋が、体を張ってスクリーン(※)をかけてくれた。 
 もう、俺も逃げるわけにはいかない。尋の気持ちと行いを無駄になどできるものか。
 「良い甥」でもない「良い息子」でもない。ただ「良い自分」であるために。

 遼はゆっくりと立ち上がった。

▼用語

※スクリーン:バスケットボールで、味方の動きを自由にするために、自らが壁となって相手ディフェンダーを阻止するサポートプレイのこと。

※カクヨムに投稿する前にこちらに投稿してみようかなあ……と。
人によっては反感を買うかもしれない内容だし、ためらわれましたが、やってみます。

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問わず語り/朱夏と平和の祈り

 にっぽんの夏
 記録的猛暑に続き、熊本地震。地震については改めて書きますが、今日は広島平和記念日。
 81年目、今朝は職場で黙とうを捧げました。
 朝から気温が30℃の地域ではスーパーエルニーニョの影響が深刻ですが、さっぽろは冷夏。春は3日と雨が続かないけど、夏の暑さは三日坊主。真夏日に届くのは一瞬で、それも局所的に道内のどこかが暑い。
 今ところ台風は上陸しておらず、この分だと農作物の育成は順調。今年のワインは数年後ヴィンテージの歴史に名を残すかも知れません。
 北海道ワインの開拓は益々進み、ワイナリーも増えて種類は豊富。
 寒冷地なので白ワインの生産量が多く、私の好きな品種も10年前と比較して、育成レベルが高く芳醇さのなかに果実感をしっかりと感じられるバランスのいいワインが選べるようになりました。白ワインを「フルーティー」と例える人がいるけど、香りや味を探る為に知識と語彙が必要になる。例えば・・・・・・

 磨かれたワイングラスは印象的なボウルの深さで、優雅なリズムを奏でるように落ちていく。
 波打つ表面に生まれたての泡を散らしながら冷気をゆるやかに解く姿は可憐なレモニー、ヴァージンを逃さないように優しく近づけば、意外性に出会う。目の前で濡れる粘度に期待が高まる。やれやれ、今夜は悪い女に出会ってしまったようだな。
 それでは、乾杯。
 薄いリムに口付け傾けると、鼻を擽る、幼い悪戯はほんの一瞬ではあるけれど、寛容に受け入れる喉にあまい痛みを募らせる。静かに花開くアロマティックなミュスカ香が神秘的な余韻を長く残してくれる、ドラマティックな展開に酔う。

 やれやれ使いは村上春樹風だとして

 これ、今思いついたワインを飲んでいる時の表現ですが、実際に飲む時はワインの専門用語を交えながら語彙を打ち上げる。
 一口目の印象をアタックといいますが、初対面、或いは剣道の順番で先鋒など。パッションで会話することでより明確にワインをどのような感じ取れたか伝えながら、讃える。
 ワインを口説く。いいところばかり論ってメリットを探すのではなく、純粋に思ったことを言うだけでいい。
 それは下手なことを言わない、自信があるから。
 何ならグラスに残して常温に戻るまでずっと話しかけている。セカンドでは完敗したけど三度も同じ手を喰らってなるものか。ああ、いけない。濡れてるよと近づいて囁きながらボトルを拭くと「かつてないほどいやらしい声出すな」と笑われてしまいますが、奥まで見えてもう一滴も出ないほど振り切る君にやっぱり勝てそうにない。
 また会いたいな。どこ出身だっけ、名前は確か・・・・・・引き寄せて裏のラベルを見る・・・・・・瞬間でも見たものは3、4ほど単語を覚えられる/それをひとつの情報として繋げて、30分間に5つくらいなら道具なしで覚えていられる。忘れないうちにスマホで検索したページを残すのが、私の酒癖。
 何だかわからないけど飲むのはアルコールが好きな人の話で、私はスペオキを探す旅をしている。
 10年前からあまり浮気をしないように「好きな種類」ワインであればぶどうの品種・アルモノワール、日本酒なら酒造好適米・雄町に照準を定めるようになりました。誠実でしょう。それなのに世間は私を変わり者の先生と呼ぶ。

 焼酎ブームのもっと前、綺麗な日本酒が流行った90年代初頭に空前のブームを巻き起こした新潟「上善如水」誰もが観ずのようだと日本酒を飲んでいたあの頃に私が愛したのは雪椿。創業30年、純米蔵で知られた新潟の老舗で五百万石に一目惚れ。
 五百万石は端麗辛口、ビールでいうとアサヒスーパードライ。
 昭和生まれのまっ濃い日本酒からキレのあるすっきりとした辛口に乗り換えるのが通だと言われていた時代に、五百万石をこよなく愛する私ですが、今でこそ有名な山田錦も雄町の系統。愛山は山田錦と雄町、だから純米飲むなら米で選ぶ癖がついてる。
 私が抱く永遠の恋しさは、紡がれた歴史の先に必ず辿り着くようにできている。
 新潟といえば美山錦。子の出羽燦々は、すっきりとしたキレのある飲みやすさで人気を博していますが、あの酸っ辛さがどうも進まない。マリアージュにはいいんだけどね。うん、選ぶのさ。食べ物を。
 今はお酒に合う食べ物が選べるいい時代だよ。
 でも、食べると酒が飲めない。食べ物うまいと酒より米が欲しくなる。
 私の好みは、何にも要らない。酒だけで成立する独立独鈷した酒を好む私にとって、美山錦は酸が立つからお酒自体もういいかなって控えめにさせてくれるスペシャリスト。まぁ物足りないくらいが塩梅いいんですよ。それを教えてくれる美山錦は憎めない存在。

 ──── やばっ、天気と暦の話をしようとしていたのに、酒の話だけで1800文字。

 ああ、君がノンフィクションだなんてさ。
 理性がどーのこーの歌いだしそう。

 さて、今日の夕方からうちの末っ子が一人旅に出ます。
 「高卒したら独り立ち」年齢でいえば成人の仲間入り、初めての選挙にも行きました。これからはひとりで何でもできなきゃ、なんだけどこっちは心配に心配を重ねて、帰ってくるまではお酒を飲まない宣言。
 お前に何かあった時、すぐに助けられるように整えたい。何もなかったとしてもそれはそれでいい。子宝というのは神様からの授かり物、親の教えとお前を守るのは私の都合だと餞別を渡す。
 「せんべつ、て何?」
 「気持ちです。家にはいいから、ばーちゃんにはお土産を買っておいでね」
 ふむ、と腕組む弟を見かねた兄の助け舟。
 「優柔不断のこっちゃんがお土産買えるだろうか」
 笑ってるけど気まずそうに朝パンをかじる。大丈夫そ?
 おもろい我々は永久不滅のファミリー。大人になって客観的に私のことを考えられるようになったら、コイツが親でよかったと心底思って貰えるように、嫌われないように、心を賭して一緒に生きると決めたんだ。

 無事の便りを待っている。父より。

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真ン夏のツンドラのド真ン中に
かさかさの林檎が落下していた
暗い風上から転がつてきたのか
転がされてきたのンが一昨日か
明明後日午後四時二十二分頃に
ウルトラ五兄弟が磔に曝されて
真ン夏のブウラウン管剥き出し
ちらつきの合間の夕燒ケ燒ケで
お友達のお母サンみたいな人が
林檎をむいてかさかさと階段を
のぼつていらしたのでわたしは
かしこまつて学習漫画を閉じた
磔の十字架はゴルゴダに屹立つ
夕燒ケを背にした黒焦げの擬態
お友達の名字に金が付いていて
ビニイルを焦がした臭いがする
地区にかたまつて住ンでいたと
記憶してるが違うかもしれンよ
かさかさと焦げていく音も無く





真ン夏のツンドラのド真ん中で
お友達の持ち物を隠して盗ンだ
乏しいベランダの鉄柵の間から
赤化する重化学工業地帯を見た

https://i.imgur.com/x4WQSfV.jpg

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白、黒、茶



黒い猫が家にいるときは黒い服が増えるし、白い猫がいれば白い服が増える。猫の抜け毛から逃れる術はないから、せめて見えなくするしかない。クローゼットの奥にしまい込んでいた冬服を出したら、猫毛でけばけばになっていたこともあった。喪服に白い毛がついたり、仕事用のワイシャツに黒い毛がついたりしていれば、職場の同類に発見され「〇〇さんち、猫います?」ということになる。そのたびに「あ…う…」となるのだが、それは私が40年来の年季の入ったコミュ障でとっさのリアクションが不得手だから、のみではない。私の家には猫がいない。黒い猫も白い猫も、みな死んだ。3年前に死んだ子、8年前に死んだ子の毛が今も家に残っている。私が残している。それを知られたらばつが悪い。

そこに茶色い子猫がやってきた。前日にショッピングモールへいき、ブラウンのジャケット、ブラウンのパンツ、ブラウンの靴下などを買い揃えて、子猫を迎えた。黒や白の服はあらかた部屋着に回した。子猫は爪と牙でそれを穴だらけにし、身体をくねらせて毛と匂いをなすりつけた。部屋着にできない服は、黒い猫と白い猫の気配ごとしまい込んだ。クローゼットはぎゅうぎゅうだ。「〇〇さんち、猫います?」と聞かれたら、今なら吃らず答えられるだろう。「何頭ですか」に答えるのが、いつも難しい。

ありがたいけど私の部屋は掃除しないでいいよ、と妻に頼んだのがいつだったか忘れた。せっかくやってあげてるのに、という顔をして、妻は掃除機のスイッチを切った。それいらい、この部屋で掃除機が動いたことがない。いまの掃除機のことはすきだ。片手で取り回しができる軽量タイプで、まだ小さい下の娘が、わたしおてつだいしてるのえらいでしょ、とアピールにしにくる。大掃除のタイミングで、脱衣所のすみに吹き溜まっている妻と娘2人の抜け毛をごっそり吸い込むのもすきだ。しかるべき場所でしかるべき活躍をしている道具を見ると、私は安心する。

だがクローゼットのなかに入り込んだ子猫にたいし、掃除機は何もできない。ハンガーにつるされた冬服の森のなかに子猫は飛び込み、帰ってこなくなった。突然暗くなり何も見えなくなった周囲に探りを入れているのだろう。もぞ、もぞ、と止まったり動いたりを繰り返す音と、爪が何かをひっかく音がする。両腕を森のなかにつっこむと、爪で手の甲をやられ、血がにじんだ。両腕をひっこめ、30分が経過した。子猫はまだ何かをしている。ひと仕事終えた、という顔で出てきた子猫を抱き上げた。猫と一緒にクローゼットに頭をつっこむと、防虫剤のにおいのなかに少しの獣の匂いと、黒と白の猫毛に茶色が入り混じっている。「〇〇さんち、どんな猫ですか?」と尋ねられて、三毛猫だよ、と答える自分のことを想像した。

 

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雨情

枕を並べてなお
『好き』とはいえず

雨音だけが聞こえる

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豊平川の岸部で

選ばれてあることの不安ばかりが我にあり。
我はこのサッポロの地を流れる川のほとりに芝生を貼らんとする。
水と草と土の匂いの混じり合う岸部に
豊平川に選ばれて、わたしは今日、在るのだ。

八月の終りの日差しの中
サイクリングロードに沿って
ロールケーキ状に丸められた芝生を延ばしては貼ってゆく。
ロールはホコリたっぷり、裏には泥もびっしり、芝生とは名ばかりの雑草だ。

選ばれて在るのはわたしばかりではない。
人足派遣会社から造園業者に遣わされた仲間二人も一緒だ。
一人は目があちらこちらに泳ぐ三十前後の失業男。
一人は元ヤクザ屋さんでトビやテキ屋の経験もある若者。
それに造園業者のアルバイト老人二人。

地面には活発なるアリンコたち
空中にはトンボやチョウチョやアブやらが盛んに飛び廻る河川敷
見物のヒヤカシカラスどもが喧しく騒ぎ立て
小樽か石狩から移住してきたのかカモメまで飛んで
ひゃあ、と選ばれしわたしを驚かす。

ロールから這い出た幼虫目当てに名も知らぬ水鳥が二羽、三羽
地面に降りてスキップしながら獲物を突ついている。
見上げれば空にも鳥が旋回する、羽広げてゆるやかに
あれはノスリかトンビの類いだろう。
皆が皆、それぞれがそれぞれの位置を定め、オノレをただまっとうしている。

光る川面の向こう岸に展開する街街。
セピアのゆらめく蜃気楼みたいに煙る
マンションやラブホテルの群、そしてタワー。
ほんの百数十年前、風景は見渡す限りの原野だった、その土地に
人が足を踏み入れたはるか昔の太古から
(そのはじまりの水はいつから?)
さーーーーー、と流れてきた豊平川の水の音が聞こえている。

ベテランの老人タッグは着々と芝生を貼り続け
元ヤクザ屋さんは器用に素早くロールを貼りまくり
初めての仕事で馴れない目泳ぎ男とわたしは悪戦苦闘
腰への負担に悲鳴を上げ始める。

周りが半袖の汗まみれの中、きっちりと長袖の元ヤクザ屋さんは
以前始めた商売で被った借財ン千万を数年間で完済したという。
気合いっすよ!気合い!とまだ若い元ヤクザ屋さんは吼える。
目泳ぎ男はすっかり彼をリスペクトしたようだ。
気合いっすよ!気合い!
そうだ、とわたしも思いたい。

河原の草をそよがす微風の中
昨日まで数々の敗北を生きてきたわたしは豊平川に選ばれて
今日はひたすら裸に剥かれた地面に芝生を貼ってゆく。
だんだんにペースも上がり単純作業の汗も快調だ。

不意にこの豊平川に明治の昔、詩人岩野泡鳴君が投身したのを思い出す。
冬の川に女と身を投げ、心中を図ったのだ。
だが泡鳴君はしくじった、やり損なった、ドジだった。
積もり積もった雪の上に落下して心中失敗、死に損なったのだ。

放浪も耽溺もせず
そして川にも、まして女にも溺れず
生き延びてわたしは今日、豊平川の河辺に芝生を貼っている。
この名も知らぬ雑草を根付かせ、蔓延させるのが今日のわたしの仕事なのだ。

明日もこの、現場に廻されるかどうかは分からない。
明日もこの、仲間たちに会えるかどうかは分からない。
今日はただ、わたしを選んで芝生を貼らしめたこの川が好きだ。
豊平川が好きだ。

悪路を巡り続けるペーパードライバーのわたしであるが、飲酒運転の末
警官をボコボコにしてしまった元ヤクザ屋さんは現在無免許だという。そして
気合いっすよ!気合い!の声が響く夕暮れ近い大気の中、

さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、

と、流れる豊平川の水の音が動いている。




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仮初の宿

広げた景色に
仮初の宿
夜の名残の隅で
お互いの気配を
抱き寄せながら

横目の身支度
隠しきれずに
交わす慕情
火照る心で
すり寄せる頬

ぬくめ合うには
言葉は要らず
あなたは
徐に私の奥へ
奥へと宿る

終われない旅路
これからもまだ
重ねる音色を
確かめるように
あなたの背中をなぞる

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