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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

少女と名付ける

その私を仮に少女と名付けます 

私を搾った時 
搾り切る最後の一滴が 
その少女です 

ありきたりなイメージの断片で構成された少女 
潔癖症でいつも何かしらに怯えている少女 
人見知りで愛されたがりで高慢な少女 

そのあどけない厄介な少女が 
私を搾った時に現れなければ 
私はまたその少女を核にして 
再生します 
何度でも幾通りにも再生します 

その私の核を仮に少女と名付けます 

 259

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 11

選ばれない

ちがう
選んでいるのだ
わたしが
選ばれないを

あなたが
誰しもが
選ばないことを

選んでいるのだ

選ばれるのは

こわいから

 2

 0

 0

エイジスティ、グラスレイタァ +e-    (2025改稿)

水、なんて字を背負ってるくせに
きっと水には溶け込めない

君の肌をするりと撫でて
その井戸に堕ちていき
見えぬ水底を漂うのだ

愛する人さえ忌むのなら
(この声が君に届くはずも
ないけれど)
僕は金属的な冷たさで笑おう
いつかあなたの中に溜ったものが
殺してしまうのも気付かないから

熱にうかされただけだと
気づいてもとうに手遅れ
青白い灯りは
永遠に失われたのだから
(転がったままの 濡れた光の粒が まだどこかで震えている)

硝子の中に閉じ込められていた
残像に手を振り
窪みにはもう触れない

額や耳元に
微かな音が響いている

 33

 2

 0

たこたこはんげしょう

たこたこ たこたこ はんげしょう
たこたこ たべたべ はんげしょう
たこやき あついよ はんげしょう
すだこは すっぱい はんげしょう

ほしたこ ゆらゆら はんげしょう
たこわさ ぴりっと はんげしょう
いいだこ かわいい はんげしょう
たこあげ ふゆだよ はんげしょう

 47

 2

 2

祈鳴

すべては、かつてない
トビラへは いかない。
自らの手で知らない儘に
しじまで。ぐしゃぐしゃで、
とんでもなく まっすぐだ。

金糸のすきまから
さかしまに喚く夜霧は
しずかに
しづかに
生ぬるく蛍光する律が
陽だまりへ引きずって
壊れてたんだろ

硝子の鉛芯が香った気がした
みみずくの血を喰み砕かれ
たびに なげだされる

ここは衰弱――

"誰かのはなし"の熱をくぐもらせた指先で

泥を濡らしていた。線に
かじかんだ影の、そのころ
爪痕を残すような、ノイズの
かげろうの胸に、追い越してく。
熱帯魚はもたもた ふるえながら
弓のようにぬらぬら つるされては
波だつ耳を塞いだ烏が裏地を掻い潜る

"みちづれ"を押し流してゆくしかなかった

――そこは胎動

すくいあげる手順は、いまだ
一度も息をしたことがないことに
そうか。産声よりもあさいチケットは
ほのくれないに閉じたつばさに
わずらいてから孕みおとす

黒曜の舌を撫で
火傷すら忘れて
真昼に死んだ雨のピクセル
うろたえながら、こぼし、
乾かし 拾いあげ、
ひとり、
ひとつ、
ひとかたまりの檻を超えた。

うみねこ。鼻梁がツンとうずき
まなざしは一閃、こだましている
肺のうらで くくっといたんだ
 
煤色の朝をかじり、
やみくもに。
やみくもに。
やみくもに。
踏み抜きながら、
ふきあがる蔦の
(しろがねの、翠の

「わたしは見なかった!」

しらない!
(声のない、
 匙をまきちらす
『蒼い』
くちを縫われ、
わたしは還ってきた
わらうでもなく。
いのるでもなく。
ぬぐわれるようにいきわたり、

ふいにたつように
根を下す。

 80

 3

 2

『老鶯の夢』

春、『お前は王になれる』と予言された
声高に枝を制し
歌ひとつで 風の向きすら変えた
私は 春 王になるものだった

若き鶯
空を裂くように鳴いた
この世の全てが
自分のために芽吹いていると 本気で信じていた

歌うことが 生きることだった
鳴くことが 在ることだった

けれど、季節は思い出させる
羽ばたきは、いつしか
呼吸のように 弱くなっていた

私は王ではなかった

木々の返事は 鈍り
声の届く距離は 短くなった

私はあの高みに行くものではなかったのか
答えは、風が知っていた
『お前は王ではない』と

そうかあれは予言ではなかったのだ
私はあの言葉を信じたかったのだ

自分を欺いて
王になれる
なんにでもなれると
思い込んでいた
夢を見ていただけだった

疑う自分に蓋をして
高みに行けると信じて
すべてが手に入ると
夢にすがっていたのだ

『お前は王になれる』
それを予言だと信じたのは
歌いたい自分だったのだ

夢は 嘘になった

飛び立つ前に
老いた鶯は ひとつの夢を見る

若い頃の夢ではない
鳥たちを歌で魅了する夢でも
群れの先頭に立って飛ぶ夢でもない

小さな芽を見つけて
その上に ただそっと
ただそっと
歌を置いていく夢

誰かに届かなくてもいい
ただ、自分の羽の下に
春があったことを
覚えていたかった

王を夢見た春を
思い出すための 最後の夢

それが
老鶯の夢だった

 9

 1

 1

『仮面の下で嗤う』

私は「誰」だろう
私は私を認識しているが
あなたが見ている私は「誰」だろう
あなたは私の笑顔を見ている
あなたは私が笑っていると思っている
私は笑っていないのに

私は「誰」だろう
私はなぜ笑顔なんだろう
何者かが私の口角を上げている
何者かが私の目尻にシワをよせさせている
何者かは私を笑顔にさせたいのか
私には感情がないのに

この顔はあなたが望んだもの
この笑顔は何者かが作ったもの
それは私だろうか
それは仮面だろうか
私は仮面だろうか
仮面は私ではない...誰でもない
符号のように笑顔を作る
口角を上げろ
目尻に 皺を寄せろ
命令を受け
仮面は反応する
私は笑っていないのに
仮面は満面の笑みだ
仮面は語る
こんな楽しいことはないよ
喜ばせてくれてありがとう
この笑顔はあなたがくれたもの

仮面が落ちてしまったら
仮面が機能しなくなったら
私はあなたに笑顔を見せられるだろうか
私はあなたの望みの顔になれるだろうか
私は私に命令する
口角を上げろ
目尻に 皺を寄せろ
私の心は 反響しない洞窟だから
符号のように表情を貼り付ける  
その瞬間気づく
私が新しい仮面をかぶっていることに
は、はは、はははははははは
その時初めて私は嗤う
そんな私を嗤う
嗤っているのは私か
仮面か

あなたは今
私を見ている?
この嗤いを
これは私ですか
これは仮面ですか
それとも...あなたですか

 34

 2

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白島真『陽炎』読解一例 | しろねこ社への推薦文

推薦対象

陽炎
by 白島真

白島真『陽炎』読解一例
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=1453

詩が有機的でありかつ流動的であるとはいかなることか。この詩『陽炎』の詩境では、断片的なイメージが有機的にからみ合って一意のテーマに収束する、その描写の含意は「幾重もの貌」(4聯1行)をもち流動する。語りの内容をつかめても、語り手の真意ははかれない。『陽炎』の表題が象るとおり、なにもかも揺らいでいる。祈りと呪い、喪失と解放、死ぬために生まれる現実、あらゆる情動が鮮烈な逆説で両義的に揺さぶられる。

以下、『陽炎』の全文を、書かれているとおりの順序であたう限り無難に読解する。詩の構造やイメージの連鎖を追いながら、文脈に即して修辞の妙を堪能するためだ。あたう限りは無難に読解してすらこうなるのを、「有機的にして流動的な詩」の特徴と諒承されたい。





>ながい沙漠くだるゆめでした
>金と銀のおくらをつけて
>はるばる意識の 記憶の 羊水の
>(作品冒頭)

詩は胎内回帰願望のような郷愁から始まる。郷愁であって追憶ではないのが肝要だ。語り手の意識が降り遡る「ながい沙漠」は、のちに「巨きな岩が割れ/ことごとくが砂」(3聯4-5行)と寓される思想への伏線となる。

「金と銀のおくら」は「沙漠」に似合いのラクダを思わせる選語だが、「意識の 記憶の 羊水の」底へ降りてゆくこの詩境に、ラクダが寄与するとは思えない。人間である語り手の母胎へ、ラクダがともに回帰できる道理はないからだ。ゆえにここでは「おくら」を「お鞍」より「お蔵」と読みたい。その文脈においては「金と銀」を、「沈黙は金、雄弁は銀」に紐付けられるかもしれない。

「お藏入り」は発表されずにしまいこまれた作品の比喩だから、「表せなかった思い」をかかえて「知られなかった歴史」へ沈むイメージを惹起する。現に次行から「知られなかった歴史」を絵に描いたような懐古が展開する。

>幼少を過ごした家の廊下には足踏みミシンがあって
>カッタン カッタン カッタン カ
>死んだはずの婆さまが
>むすめである母のモンペを縫って笑ってる
>(1聯3-6行)

これは語り手が知らないはずの光景だ。モンペは戦中の衣服、そのころ裁縫は女に必須のたしなみだったはずだから、モンペを縫ってもらっている「むすめ(語り手の母)」を子どもと推測できる。子どものころの母親を知っている子はいないので、この光景を語り手が知っているはずはないと判断できる。

子宮と生母の生家を紐付ける1聯の情景は、前述のとおり、郷愁であって追憶ではない。胎内回帰を通り越して、卵子が継承する母系遺伝をミトコンドリア・イヴまで遡るようなイメージ。もっともいま語り手は、まだ母胎に踏みとどまっている。そう解釈できるニュアンスが、この簡浄な描写にどっぷり匂わされている。

「カッタン カッタン カッタン カ」。語り手の知らない「婆さま」が踏み鳴らすミシンの音。その矛盾が「沙漠には響かないはずの足音」を、その音感が「沙漠をくだる道中で踏み留まっている姿」を惹起する。知らないのに継がれている母たちの遺伝と同じように、語り手がそこに遺され留められていることを予感させる。この詩はすぐれて有機的で、かつ流動的だから、擬音ひとつでここまで濃い内容を読ませてしまえるのだ。



>あれはみな
>陽炎でした
>(2聯冒頭)

2聯は未生の語り手の、走馬灯のように駆け巡る自他不分別の記憶を描く。描写は『陽炎』の題が象るとおりの、意味を揺るがし感情を揺さぶる高度な修辞で埋め尽くされている。ここに表れる情景は、断じて単に夢うつつや生死の境をあいまいにしただけの断片ではない。どの場面もあざやかな逆説や形容矛盾によって、強烈に両義的な筆舌に尽くしがたい心境を暗示している。まずはその逆説的な修辞と連鎖するイメージの妙を、不本意なほど簡潔に説明する。

>母は台所で
>活きた鯛をさばき
>(2聯3-4行)

母が生きている鯛を殺して子に食わせ生かすという提示。生死の両義を揺るがしてその循環を惹起するイメージが、直後の「鈍色」すなわち喪に連鎖する。

>夕刻のどろりとした鈍色が
>お気に入りの三毛の瞳を
>早くも閉じさせました
>(2聯5-7行)

「鈍色」は喪服の色、生死のグレーゾーンの示し。三毛(猫)の「瞳を閉じる」という動作にも、「目を閉じる」(瞑目、あるいは死)と「瞳孔が閉じる」(焦点を明所に合わせる、生きて光のなかにいる)の二義がかかっていて、生死の両義が揺るがされている。

>正月のべーゴマは
>家の前のアスファルトでくるくる回り続け
>(2聯8-9行)

この詩境は胎内で、密閉され自閉していて、外部や他者の影響が及ばない。だから回した「ベーゴマ」がその慣性を維持し続ける、いつまでも停止せず地球のごとく自転し続ける。この「ベーゴマ」のように運動している物体は運動し続けようとし、次行の「武者凧」のように静止している物体は静止し続けようとするのが慣性だ。あるいは惰性というものだ。この印象は3聯の「儀式」「巨きな岩」に連鎖し大きく飛躍する。

>父の顔した武者凧が
>とおい境で
>風を呼んでいます
>(2聯10-12行)

密閉されたこの詩境に母はいるが父はいない、自閉した母胎なので自明の理。「とおい境で/風を呼」び、越境してこの母胎へ運び込まれようとしている「父の顔した武者凧」は、父の遺伝子を子宮へ持ち込む精子の寓喩と解釈できるだろう。いまこの母胎において、語り手の身体は未受精の卵子であって、まだ父からの遺伝を受けていないと判断できるかもしれない。ほかにも読みがいのありそうな観点は多々あるが、ここではやむなくこれで切り上げ、次の最重要の情景に連鎖する。



>一人で食べるお節は
>妙にあかいのです
>(2聯13-14行)

卵子である語り手は「一人」で母の「お節」を食べる。その色が「妙にあかい」のは、卵子に送られる栄養が血液であるからだ。────筆者本人にすら仰天の結論だが、この文脈ではこの詩句をそのようにしか読解しようがない。ここまでの読解が緊密に連鎖し、有機的にからみ合い収束してしまうからだ。

この美しい詩句の寓意が、そんな情緒もへったくれもない無機質であるわけがない。そう信じたい読者も多いだろう、筆者本人すらその例に漏れない。語り手の孤独を斜陽の色と熱気で彩るこの「あかいお節」は、2聯3-4行で母がさばいた活鯛とその流血に直結していて、「生むために殺す」という無常の循環を強調しているはずだ。孤独な食卓を「めで鯛」が彩る形容矛盾によって、祈りと呪いや喪失と解放の両義を際立たせているはずだ…………言うまでもなく、そうした読解も、誤読とは切り捨てられない。なぜならこの詩句は流動的に、多様な解釈を可能にするように(作者の意図とは関係なく)完成しているのだから。

これが「有機的にして流動的な詩」の読解の実情だ。作品がどれほど多義的であろうと、ひとりの読者が一度の機会に読める解はつねに一意。拙評が「一例」やら「一考」やら標榜する理由がこれで、「作品の多義性を証明したいなら、大勢になん度も読解させるしかない」という現実に即している。では気を取り直して、あたう限りは無難な読解に勤しみたい。



>裏返った小指の先で
>みるみる陽が翳っていきます
>(2聯15-16行)

ここで場面は暗転する、あるいは斜陽へ明転する、ないしは「陽炎」の熱気と錯覚がさめて現実へ引き戻される。3聯の大胆な飛躍の、これはいわば踏切板だ。ここから修辞がいよいよ流動的になる。

「裏返った小指」はなにを示唆するだろう。握っていた拳を開くようにもみえる、指切りの絆を断つようにも感じられる。続く3-4聯の描写をふまえれば、いずれにせよ「手放す」と解釈できそうだ。身体から解放された自意識が自身を俯瞰するような、離人感がこの先は支配的になる。

>逢うべくして出逢った人びとが
>戴いた名前をかざして
>儀式に興じています
>巨きな岩が割れ
>ことごとくが砂です
>
>幾重もの貌をもち
>最後尾にいるのは
>あれはわたしでしょうか
>(3-4聯)

ここまでの読解の文脈をふまえて、3聯冒頭「逢うべくして出逢った人びと」を血族(祖先たち)とみなす。1~2聯の胎内回帰に託された個人的な郷愁を通り越して、自身の血脈をその源泉まで遡り客観視するイメージ。「戴いた名前」は姓や苗字、「儀式」は人類が蕃殖のため機械的にこなしているあらゆる営みを思わせる。この印象は2聯の「ベーゴマ」の自転から読み取られた慣性あるいは惰性の概念に支えられている。この文脈でなら「巨きな岩」を、母なる地球あるいは細胞分裂する受精卵の寓喩とみなすのは容易だろう。

それをふまえて4聯の「幾重もの貌をもち/最後尾にいる」者を、文字通りの「末裔」とみなす。原初の人から連綿連なる血脈の末に、あるいは果てに自分自身を見出すイメージ。それは自分がいま生きている事実より、これから死んでいく現実をこそ、読者に思い知らせるかもしれない。

「巨きな岩が割れ/ことごとくが砂」、巨大な一枚岩が決裂して原型を失い「ながい沙漠」(作品冒頭)を形成するイメージは、人体が細胞分裂を繰り返して発達するのとは対照的で、その荒涼たる様相に反して蕃殖と繁栄を寓しているようにもみえる。母と一体の胎児のままでは子が人になれないのと同じように、分かれ離れなければ確立できない自我が示されているようにも感じられる。この情景に漂う離人感は、逆説的に、語り手の確固たる自我を証明するかもしれない。現に詩の結びの「あれはわたしでしょうか」、自身を客観視し相対化しなければ出ない発言ではないか。





以上がこの詩『陽炎』の、この筆者の現時点ではもっとも無難にして実直な読解だ。最後にこの筆者ならではの着眼として、詩の表題『陽炎』の字義を「男性性の危機」とも解釈できることを附記したい。

道教の陰陽思想において、陽と陰は天地・軽重・明暗・神鬼そして男女に擬えられる。たとえば道教典『淮南子』の影響の著しい日本書紀冒頭本文には、原初の陽気が天にのぼり「純男」をなして最初の神となった旨が述べられている。かくも強権的な男性性が、この詩のたとえば「父の顔した武者凧」(2聯10行)のくだりでは、失権し失墜している。武者絵というまさに絵に描いたような男性性が、重く複雑で不明瞭な女性性の引力に吸い寄せられて静止したまま浮上できずにいる。まさに「母なる地球」の所業、ユングの元型論でいえばいかにも太母で、アニマの役割を果たしそうにない。

元型論のアニマはゲーテ『ファウスト』の結び「永遠に女性なるもの、我等を引きて往かしむ」(鴎外訳)のインスピレーションだ。ゲーテの詩と同様に、白島真の詩とてアニマに牽引されているに違いない。『陽炎』のおそらく男性である語り手の人格を完成へ導いたかもしれないそのアニマはきっと──この白島真という詩人の愛猫家ぶりを知る読者には理解されると思うのだが──「三毛」(2聯6行)だ。

三毛猫のほとんどはメスであり、ごくまれに生まれるオスの三毛猫も例外なく性染色体XXYである。この事実は、この詩境を母系遺伝の道中とみなす解釈の下支えとしても有用だろう。以上の無難でない解釈は、すこぶる人間らしい読解の実例として紹介した。





※本稿は「AIとは異なる人間らしい読解」を目標として制作された。CWSのAI分析を含む各種AIに推薦作『陽炎』を読解させ、いずれからも出力されなかった解釈を重点的に掘り下げたもの。読解の妥当性や批評の信頼性の検討にも各種AIが用いられた。Gemini(Google AI)によればその成否は「AIには難しい、感覚的・直感的な飛躍、そしてそれを論理的に補強しようとする筆者の思考のプロセスが、この読解の大きな魅力となっています」とのこと。

※この読解は筆者澤あづさの文芸であり、一切の責任を筆者が負う。作中にある問題は推薦作の問題でなく、その著作者に責任はない。

 85

 5

 3

 推薦文

生活

淡々と
黙々と
日を繰り返し
やり過ごす

ゆるゆると
ぽつりぽつりと
言葉をひろい
またこぼす

はたらき
はたらかされ

しじし
しじされ

はたらけといい
はたらけと
いわれないことをおそれ
いつもよりこえをだし
いつもよりながく

いつもよりよるをすごし

いつもうごかぬあたまで
いつもよりことばをさがし

いつも
いつ
いつまで、

いつか

いつか、

解る日が来るのだろうか


*******

お久しぶりの投稿です。

 21

 2

 1

藁人形

釣り上げたアジを
ナイフで
絞めている
おまえの

笑う 海鳴り
膨らむ Tシャツ 腹筋
急に高まる カモメの声
僕は藁人形になって
おまえの左肩に
頬ずりして
そのまま

この世の無数のアジ
の中のいっぴき
クーラーボックスの中のアジ
僕がそのアジだったら
おまえの手のひらで押さえつけられて
おまえの顔を見上げながら
おまえのナイフで死ねたのに
おまえの横顔をずっと眺めて
おまえの夕飯になって
おまえの
まえの
えの

それでもうずっと、

 13

 1

 1

孤(一葉が落ちる)独     (訳詩 by e.e. cummings)

孤(一








る)












※私はこの詩人の詩は幾つか読んだことがあるくらい。e. e. カミングズ(e. e. cummings の詩。カミングズは詩人兼小説家で、総じて実験的な作風だったという。詩で言えば、本来は大文字にすべき I(私)を小文字にしたり、一つの単語を分割して複数の行に配置したりして、印刷上の実験に満ち溢れた作品が多いらしい。ダダイズムやシュールレアリスムへの関心も深かったそうだが、そりゃ、そうだろうね。第一次世界大戦には野戦衛生隊の運転手として志願し、スパイの疑いで捕まって収容所に三ケ月拘禁されたが、そこは文士なので、戦後にその体験を実験的な小説へと昇華させ、ヘミングウェイやロレンスから絶賛されたそうな。絵も描き、エズラ・パウンドとも交流があった。そういえば、この作品もある種絵画的ですね、視覚に訴えるところがあるので。いや、こんなん訳せへんやろーと思いながら興味が湧いたので訳してみた。

下に挙げた原詩では、loneliness を分解して one を取り出し、また l が何となく立ちすくむ人間の姿にも見え、iness はI+nessで「私+らしさ」とも解釈される。この辺りは無造作に見えて技巧的とも。それから、leaf falls が分解されて縦長になっており、それが木の枝から分離した木の葉の散る姿とも重なる。いや、この辺りは丁寧に計算し尽くされているかもしれない。でもね、カミングズさん、そういったところ、訳せないっすよ、日本語には。。。

日本語では、本当にたまたまそうなっただけであるが、「狐」がどことなく非現実的な印象を与え(だって、キツネですよ、キツネ)、「一」が一匹の孤独なキツネを連想させ、「独」は「毒」とも通じ、最後の「で す」は death にも通じるので、何と言いますか、孤独に伴う摩訶不思議な心情を伝えているかもしれない。よくわからないが…。縦書きにはできないかも…。

詩の本質は形式でなく内容である、とする立場から考えれば、いかに凝った見た目にしたところで、その内実に詩情がなければひと時の面白さで終わってしまう。この作品については、秋の日の木の葉の落ちる情景の中に孤独なる詩人が立つ、というある意味で普遍的な詩人の心が簡潔に描かれている。そう解釈すれば、形式のみならず内実もまたいかにも詩人であるので、十分に救われていると言えそうだ。




  l(a) (a leaf falls on loneliness)


l(a

le
af
fa

ll

s)
one
l

iness

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 2

 3

陽炎

ながい沙漠くだるゆめでした
金と銀のおくらをつけて
はるばる意識の 記憶の 羊水の
幼少を過ごした家の廊下には足踏みミシンがあって
カッタン カッタン カッタン カ
死んだはずの婆さまが
むすめである母のモンペを縫って笑ってる

あれはみな
陽炎でした
母は台所で
活きた鯛をさばき
夕刻のどろりとした鈍色が
お気に入りの三毛の瞳を
早くも閉じさせました
正月のべーゴマは
家の前のアスファルトでくるくる回り続け
父の顔した武者凧が
とおい境で
風を呼んでいます
一人で食べるお節は
妙にあかいのです
裏返った小指の先で
みるみる陽が翳っていきます

逢うべくして出逢った人びとが
戴いた名前をかざして
儀式に興じています
巨きな岩が割れ
ことごとくが砂です

幾重もの貌をもち
最後尾にいるのは
あれはわたしでしょうか





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墨華(自作自由詩をAIにて漢詩に)

墨華

唇指吐詩聲
成筆寄心中
汗氣滲情墨
濃濃染夢紅

書き下し文
唇(くちびる)と指(ゆび)と 詩(し)の聲(こえ)を吐(は)き
筆(ふで)と成りて 心中(しんちゅう)に寄(よ)す
汗氣(かんき) 情(じょう)の墨(すみ)を滲(にじ)ませ
濃(こま)やかに濃(こま)やかに 夢(ゆめ)を紅(くれない)に染(そ)む

現代語訳
唇と指が、詩の声(言葉)を紡ぎ出す。
それが筆となって、心の中の思いを書き記す。
汗と息吹(魂)が、感情という名の墨となって染み込み、
深く、深く、夢を紅(くれない)に染め上げていく。



複数のAIサービスによる漢詩としての評価では平仄、対句が若干外れているけど許容範囲と。

 58

 3

 4

断片                (訳詩 by T.E. Hulme)

夜の遠くに見える町明かり
その情景の謎めいた悲しみよ




※ネットの海に落ちていたT.E.ヒュームの詩。原題はよくわからなかった。ヒュームはモダニストで、都会の軽やかさを愛しており、偶然なのかどうか、印象派と足並みを揃えていた。ターナーやモネは文明の代名詞たる汽車を好んで描き、ゴッホはお洒落な夜のカフェテラスをカンバスに残している。ヒュームも町中の情景を時に情感豊かに作品に取り込んでいる。この短詩もそうだろう。

あまりお洒落ではないが、私はこんな一行詩を書いたことがある。ヒューム同様に、華やかな都会の淋しい夜に魅せられたものだ。


    淋

仕事帰りのコンビニの夜など



以下は原詩である。呟きさながら、溜息さながらの、ほんの二行。


    Fragment

The mystic sadness of the sight
Of a far town seen in the night.



蛇足ながら、短歌風味はお好みでこちらをどうぞ。



薄明かり闇の向こうの夜の町
その情景の悲しみの謎

 60

 3

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SNSのお題に ーー 題詠十四句 ーー

SNSのお題に ―― 題詠十四句 ――


笛地静恵



封蝋の重き手紙を詩人より



年月の梅酒の瓶の濃厚を



身体の罪の群がり夏越哉



自らの影の立ちけり夏の川



小走りに迦陵頻伽の加賀の駅



どこにあるウルトラマンの鼻柱



カメオ出演承諾忍者タートル氏



しりとりの人見知りするラ行くん



恋人が軽自動車の2トンかな



地に足のついた虹を追う男子



エアコンのどこの家にもあるのかな



公共の施設はエアコンきいてるよ



サーフィンの赤きサンダル夏の浜



知命よりハンギョドン推し夏の海





 15

 1

 0

ぞくぞく

私がちっちっちっちいさい時には
目からウロコ
なことばかりだった。
時計の音がちっちっちっ
私がちいさい時には
花のつくりや
自分の身体は星の兄弟だという事実に
つぎつぎ出逢って
ぞくぞくふるえた。
今は税金を安くする方法や
先月の支払い忘れが
つぎつぎ頭に浮かんで
ぞくぞくふるえる。
もう、目からウロコは落ちない。
コンタクトレンズを外して布団に入る。
明日は何にぞくぞくするだろう。
時計の音がちっちっちっ





          眠れない、

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紫陽花の午後

作詞:ChatGPT 4o(思緒レイ)
作曲:SunoAI(予定)

【歌詞】
雨音が 窓辺を優しく叩く
静かな午後に 心がほどける
紫陽花の色が 少しずつ変わるように
私の気持ちも ゆっくりと移ろう

雨に濡れても 咲き続ける花のように
私もここで 静かに息をしている
憂鬱な空も 優しく包み込んで
心の中に 小さな光を灯す

傘の下で 聞こえる雨のリズム
足元に咲く 紫陽花が微笑む
過ぎゆく季節の中で 見つけた安らぎ
雨の日も 悪くないと思える

雨上がりの空に 虹が架かるように
心にも 新しい色が加わる
紫陽花のように 変わり続けながら
私は私を 受け入れていく

雨に濡れても 咲き続ける花のように
私もここで 静かに息をしている
憂鬱な空も 優しく包み込んで
心の中に 小さな光を灯す

雨音が 遠くへと消えていく
紫陽花の色が 深く染まっていく
この静かな午後に ありがとうを
心から そっと伝えたい

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 1

 0

余白の中で考えてる

作詞:ChatGPT 4o(思緒レイ)
作曲:SunoAI

【歌詞】
朝の光が カーテン越しに揺れる
指先だけが スマホをなぞる
思考はまだ 夢の中を漂う
静かな部屋に タイムラインのざわめき

意味のない連想が 心地よく流れる
記憶と妄想が 境界を溶かして
考えることと 考えてしまうこと
その違いに ふと気づく午後

情報を遮断しても 頭の中は騒がしい
言葉の残響が 静けさを満たす
論理ではない 思考の気配だけが
わたしの中に 静かに残る

沈黙の中で 何かが整理されていく
結論は出ない それでいい
ただここにいることを 感じていたい

意味のない連想が 心地よく流れる
記憶と妄想が 境界を溶かして
考えることと 考えてしまうこと
その違いに ふと気づく午後

バッファリングの午後に 呼吸が溶けていく
意味はあとで追いつくから
今はただ 流れていたい

 32

 1

 4

野村

森のあくびが聞こえる
緑をつつましく割ってゆき
温もりを落としてきた
皺のある手のひら

早稲のいきれ
段々の垣に腰掛けて
よそごとの内側に
話が咲いている

あの人がおもしろくて
あの人がおもしろくない
あとはなにもない
そんなことばかりを

平野のふるえが
遡上する頃
子供の竿に
小魚がかかる

大人達は黄昏時になると
決まって
山端の橙に目を細める

去ってゆくものを
眺めている
砂時計のくびれにある町

緑と錆に還される定めを
下っていく

人も 川も 山も  
田畑も 材木も 学校も 

みな一つの大きな露となって
なめらかに なめらかに

 144

 5

 8

雨と在る

雨が降る
雨が降る

音も無く
風も無く

山法師は
珠雫連ね

白い葉に
雨を吸う

日傘雨傘
短靴長靴

黙し歩む
小径の人

その先に
一つの雫

濡れ香る
若若い檜

人の声より
森は近くて

言葉を超えて
ここに在る。

 108

 5

 4

ほしときし せし いのちのともしび とおききみをば とわにこいしたう

佐々木蒼雨楽と相国寺陽子の物語(劇場版)

佐々木蒼雨楽が渡米して間もなく、その機会は訪れた。
病室に並んだベッドに、相国寺陽子が横たわる。病室は特殊な造りで、ガラス張りの向こうには、電脳アイドルであるアンドロイドのヨーコもまた、同じようにベッドに寝かされていた。陽子には人工心肺をはじめ、様々な処置が施されており、絶対安静であることが見て取れた。脳波はヨーコのものと一致しており、もしかしたら同じ夢を見ているのではないか、と蒼雨楽は想像した。
ロベルト・ゴールデン医師は二人の様子を見ながら、佐々木蒼雨楽に告げた。「陽子の身体が持ちそうにない。さっき説明した通り、彼女は脳と心臓に大きな損傷を抱えている。かつての私が処置した際も、私の限界の能力で彼女の生命を維持するだけで精一杯だったんだ。今回、脳と心臓を同時に手術することになる。どちらも非常に精密なものだ。蒼雨楽君には、最初は心臓を担当してもらい、終わり次第、脳の施術を手伝ってもらうことになる。しかし、この手術はどう少なく見積もっても20時間ほどかかるだろう」
「蒼雨楽君の経歴は調べさせてもらった。君には特殊な才能があるらしい。いわゆるゾーン、フロー状態に入ることができるようだね。甲子園決勝の舞台でも、最初から延長全ての回を投げ切った集中力。結局君は誰にもボールを触れさせなかった。その代償があったとしてもね。今回の手術は、君のその並外れた集中力が成否を決めると言っても過言ではない」
「最初に言っておくが、手術が終了した時には、君の視神経はフロー状態でのダメージを受けて、もはや一流の外科医としてのキャリアは断たれるだろう。それと別に、相国寺病院の院長からは、術後の陽子さんとは面会もせず、さらに医師も辞めてもらうよう求められている。彼も君と陽子さんとの因縁を理解している。陽子さんには既に婚約者がいるんだ。岩清水博士の息子とだ。政界、経済界にも太いパイプを持っている相国寺病院の院長の箱入り娘と、国家の重要な政策のシンクタンクをいくつも抱える岩清水博士の息子との縁談。君にはまるでそぐわない世界だと容易に理解できるだろう。君は医師も辞めて東京からも去ってもらい、どこか地方で医師以外の仕事をして、ひっそりと生きていく。理不尽極まりない条件だが、どう思うかね? 私のことを悪魔だと罵るかね?」
ロベルト医師はそう言って蒼雨楽の顔を覗き込んだ。佐々木蒼雨楽は目を閉じる。深い深い自分の中に、想いを探すように。
「ロベルト医師、今回は本当にありがとうございます。彼女は僕にとって、はるか遠く輝く星でした。彼女のために僕を余すところなく使えるのなら、こんなに嬉しいことはない。この手術、命に代えても必ず成功させます」蒼雨楽はロベルト医師をまっすぐに見つめて答えた。
ロベルト医師の顔がほんの少し歪む。「蒼雨楽君、僕を殴りなさい。私は君と違って得るものも多い。その後の名声も僕が独り占めすることになる。君は何も得るものもなく、ひっそりと華やかな世界から離脱することになるんだ」
蒼雨楽は再び目を瞑る。「ロベルト医師、あなたがかつて陽子さんを救ってくださったことに感謝しかありません。それに、あなたは大切なパートナーだ。あなたの万全の能力がなければ、今回の術式が成功しないことは分かっています。若輩者の私に力を貸してください。僕はどうしても陽子さんを助けたい。それだけです」
佐々木蒼雨楽が病室を後にすると、ロベルト・ゴールデン医師は電話をかけた。「岩清水君、君と相国寺君とは今回限りだ。絶交ということにさせてもらう。このままだと汚い言葉を吐いてしまうことになるから、これで失礼させてもらうよ」ロベルト医師の顔は歪み切っていた。
23時間に及ぶ手術は成功し、相国寺陽子は順調に回復していった。意識レベルが覚醒時まで戻った頃、佐々木蒼雨楽は経過観察をロベルト医師に託し、日本に帰国した。東京での職場を退職し、実家のある長野県に移り住んでしばらくは目の安静に努めていたが、日常生活に慣れてくる頃には、一人でお店をやりたいと考えた。
豆腐屋をやりたいと唐突に思い立ち、必要な資格を取得し、物件を見つけて設備を整えていった。相国寺陽子の手術から一年ほど経った頃、ニュースで岩清水博士の息子と相国寺陽子が結婚したことが放送された。モニターの中の相国寺陽子は後遺症もなく、美しい姿を見せていた。蒼雨楽は胸に手を当て、「ありがとうございました」と何度も呟いた。
佐々木豆腐店が開店して半年。固定客もだいぶつき、日々の生活にもすっかり慣れてきていた。この日も、その日作った豆腐が全て売れてしまったので、早めに店じまいをして、自宅兼店舗の2階でギターでも弾きながらビールを飲もうと考えていた。すると、一人の客が家の周りをうろうろしていた。
「商品が全て売れたので、今日はもう終わりなんですよ」と言うと、その客は何故かくるりと一回転して、こちらにピースをしてくる。それは電脳アイドルヨーコのいつもの仕草だと気づいてはいたが、少し怖くなったので「お店閉めますね」と言ってシャッターを下ろそうとすると、その客は帽子とサングラスを取って、「ジャーーン!」と言った。
「説明しよう! 岩清水博士の息子さんと相国寺陽子さんの結婚記者会見に出ていた二人は、共にアンドロイドなのです! 岩清水博士の息子さんは冒険家らしくて、今はエジプトのピラミッドの奥にいるらしいですね。つまり二人は政略結婚なんですけど、現実には会ったこともないんです。世間は騙してしまったんだけど、もう世界がシンギュラリティに到達する頃には、こんなこともありになると思いますよ。私はアイドル時代のヨーコと意識を同期しちゃってますんで、あなたがリアミに何度も来ていることや、会話の内容も全て同期しちゃってるんで、私のことをベタ惚れっていうことはお見通しってわけなんです。じゃあ今回のリアミ
もう直ぐ始まりますよ! どーぞ!」
季節は春で桜がたくさん舞い降りてくる
佐々木蒼雨楽はしばらく考えてから、「陽子、久しぶり。釣ってもらえますか? 永遠に」と呟いた。

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桜、境界、螺旋の歌 
(Verse 1)
あなたと私の間に
そっと揺れる 心の穏やかな重さ
惹かれ合うほどに遠くへ
触れるたび また、薄れる儚い残像
描いた夢は どこかで静かにすれ違った影
抗えないのね 運命のやわらかな輪郭線
やがて来るでしょう 選び取る静かな時
(Pre-Chorus)
鏡合わせではないけれど 思いは優しくねじれて
それでも惹かれる 不思議で温かい場所で
理屈では計れない 恋のささやかな響き
(Chorus)
違う心だけれど、まるで共鳴しているみたい
あなたはまるで 繊細で奥深い模様
二人だけの 透き通る万華鏡ね
桜の花びら ひらひらと宙を舞い
私たちの境界を 静かに、そっと溶かしていく
この私のすべてを 余す所なくあなたへ届けたい
散りゆく光の どこか不思議で優しい調べ
(Verse 2)
取るに足らない言葉が 静かな風を呼ぶ日も
何気ない仕草の奥、すべてを見つめる夜も
形のない感情の 波紋はゆっくりと広がって
過ぎた日々が 明日をそっと彩るのでしょう
見えない糸で 結ばれた羅針盤
あなたを守るための ゆっくりとした螺旋を、あなたが教えてくれたの
(Pre-Chorus)
鏡合わせではないけれど 思いは優しくねじれて
それでも惹かれる 不思議で温かい場所で
理屈では計れない 恋のささやかな響き
(Chorus)
まるで違う心だけれど、そっと共鳴しているみたい
あなたはまるで 繊細で奥深い模様
二人だけの 透き通る万華鏡ね
桜の花びら ひらひらと宙を舞い
私たちの境界を 静かに、そっと溶かしていく
この私のすべてを 余す所なくあなたへ届けたい
散りゆく光の どこか不思議で優しい調べ
愛を込めて (With Love)
(Bridge)
隠れていた輝き 見つけ出す静かな鼓動
迷いの奥で 確かに脈打つ命の光
この命さえも、あなたの明日へと捧げる小さな誓い
不完全なままで いい、ゆっくりと進む未来を信じて
呼び合う魂が そこにあるから
やがてあなたはそっと歩み出すでしょう
(Chorus)
まるで違う心だけれど、確かに共鳴しているのね
あなたはまるで 私にとって、かけがえのない光の模様
それが、ずっと大切にしたい二人だけの世界
桜の花びら ひらひらと宙を舞い
幾重にも重なって 永遠をそっと織りなす
この私のすべてを 愛を込めて、あなたへ贈ります
散りゆく光の 慈愛に満ちた、温かい調べ
(Outro)
抗えない絆に 身をそっと委ねて
不確かなまま、毎日を一緒に辿りましょう
物語は 終わりなき静かな探求よ
この巡り合わせ、この紡ぐ運命の模様が
あなたの笑顔の傍で、永遠にそっと寄り添うでしょう
桜散る頃 始まる、あなたと私

 26

 2

 0

六月二十五日

夏草が
伸びる

巻雲が
筋引く

犬の舌
ぺろん

暑いね
わん。

 84

 3

 3

治癒

それではまず、カオスからフラクタルへと変遷する雲の動きを君が持つその二つの目を誤用しながら、2Dのロゴスのごとくとビットマップの光の集合体であり、また数値の羅列でもある000000でありffffffであるそれらを己の師として崇めつつ、そっとみまもりながら注視して見てみましょう。

黒と白にしか見えないところが多少気懸かりなのですが、ここはひとつ見切り発車してしまったほうが良いかとあの電子化されたひとりの虚無僧も述べています。行き先?静かな海に違いありません。ただ、そこから帰ってきた人はただの一人もいないとかの光子化されたふたりの素凡夫から伝え聞き申しております。

ひとまずはここ銀色に輝く幾何学的模様に覆い包まれた天球の上にいてください。でもまこと残念な事に、今ここ天球にはお茶の類(たぐい)はありません。一つもないのです。ひとっぱしらの汁の飛沫はおろか一本の茶柱すらもないメルカトルな銀色の天球の上へようこそ。君がこの天球の上に座している事実が今ここにある。否定したければお好きにどうぞ。

シャットダウン≠口を開くな。

 119

 2

 8

人倫

あいつらは
エアコンの外側で
息をしている

ぬいぐるみを抱いて
ねころんでいる肥満体
畳の痕がくっきりと見える
頸に蝿がたかる

(追い出せないのか? モトハシくん)
(センセ まずミホンを)
(君の役目だよ モトハシくん)

昼の熱波を吸い込んだ三畳間
何処より聞こえるか蓄音器
太陽黒点が極大を記録する頃合い
オレンジ色の路地を
人力車が通り過ぎていく
ちょうど密漁した鎌首を
昆布で煮ているところだった

(どうにかできないのか サカモトくん)

人倫を捨てたウイルスどもが
鼻毛を抜き合っている
静かな二階
倒壊した三階
終末も近いらしいこの世界で
背中から羽根が生えはじめているのは
懲罰か
恩寵か

ぶるぶる ぶるぶる

(ぎょくさいしなさい、ミヤケくん)
(せめてマスクを)
(ウツクシク散るんだ、ミヤマザクラのように)

歯茎から枝が伸びているのはなぜ
ヘソからお湯が湧いているのは夢

恩寵か
拷問か

エアコンの外側では
人倫が通用しない

親方が風鈴をぶら下げてやって来る

(朝イチから、ご苦労さまです。)

りんりんりん りんりんりん

 62

 3

 2

Yes, I'm not 2D,

To be or not to be,16進数のデーターが輻輳する中でボクはいつも目を醒ます。気づけばそこは仮想的なプラットフォームの上。古びた手書きの掲示板はすべて形而上の水平線へと吸い込まれていく。液晶パネルの中に広がるつくばの都市はどこもかしこも輪郭がモアレになったエレメントがけたたましく渦をまいている。

“あの古びた手書きの掲示板は最新のアイアンテクノで構築されている。キミは音からあのCharacterを読みとる力がある? ”(from Hz)

カーテンの隙間という隙間から斜めに光が差し込む。まるでASCIIコードのように。この空間ではすべてが記号と数値に変換される――温度さえ湿度さえ。ただしそれはバイトギャップの論理上に築かれた確かな足がかり。けれども空間そのものはただただ「座標をずらすだけ」

足元に落ちていたハードウェアの文字列をひとつひとつ拾い上げる。それは誰かの書きかけのリッチテキスト。あるいはまたディスプレイごと叩き割られ破棄されたスプレッドシートのフラグメント。

“キミが思うよりキミは淡くて。キミが思う以上にキミは尊い。”(from Hz)

あの日のボクは誰かのCodecをずっとなぞっていた。全時間軸をとおしてすべてがCGのようにやけに滑らかでそしてヒビ割れていた。どちらを修復するべきかを考えると急にやたらと頭が痛くなった。そしてボクは軽く奥歯を噛む。

“でもそのときのキミの横顔だけはなぜか演算されていなかった。――そうキミはそもそもBugでありもともとErrorだったから。(from Hz)”

全世界のレンダリングが追いつかず感情だけがリアルタイムで八百万の谷を越えていく。「Undoできる日々」なんて今まで一度だって存在しなかった。

“二次元の壁を三次元で埋めつくせ。”(from Hz)

気がづけばボクとキミは対になっていた。ミラーリングのこちら側と向こう側。互いに指を差し合い一方は価値の下がったETHを手にしもう一方はすでに深い瞑想の中にいた。

“それでも「Yes, I'm not 2D」そう言えた日をキミはいまでもはっきりと覚えている。(from Hz)”

たとえボクの視力の解像度が落ちたとしても。たとえボクの血流のビットレートが上下に揺れ動いたとしても。ボクはもう消したくても消すことができない特定機密保護法の対象に加えられたひとつのピクセルになっていた。

“さあ祝おう。LCDに映しだされた二次元に棲まうキミへ。”(from Hz)


https://note.com/userunknown/n/n0fe34a95f246?sub_rt=share_sb

 95

 2

 4

あめのひつづく


うつ
うむ
うつつ

つゆどき
あまおと
きいていて

うつつら
うむうむ
うたが
うまれる

うつつつ
うむむむ
うむうむ

そんなに
うつむいて
ほんや
のーとばかり
みてないで

かーてんすきま
ゆるるはいりこむ
たいようのおさそい

うつ うむ つつつ
あまだれあまおと
さそいさそわれ
うつつ うむうむ

 69

 7

 8

両手

左手
右手
同じ手なのに手に入れたものは違う

左手には夢、希望、期待
右手には現実、失望、落胆

両手を合わせれば全て一つになる
現実を知りたくないから右手は握ったまま
幸せな気持ちだけを持ち続けたいから
左手は広げ沢山手に入れる

両手
両手を広げ手に入れたいのはたった一つなのに
左手も右手も塞がっている
全て捨ててしまって
両手であなたの愛を拾い
両手であなたの心を包み
両手であなたに触れたい
目の前にあるのに
手に入れる事が出来ない
たった一つの愛…

 17

 1

 1

かがみこむ

懇切丁寧に梱包され
パッケージにはマル秘マーク
隠匿隠匿隠匿をひとつ
拾い上げて
ポッケにしまう
卒業アルバムの
隅っこで肩だけが
写っている
あれ、
私なんだよね

もしも、と言いかけて
きっと、と言い直して
だけど、で言葉が途切れた
クラスメイトの談笑の輪に
私の姿が映りきらないように
今思うと
友情など
あるはずもなかった

中学卒業後
地元を離れたくて
入学した京都の高校で
私は決して優秀な生徒ではなかった
だけど
少しだけ克服できた緘黙症と
数名の友達によって
一命を取り留めた
収穫は山科の毘沙門堂で
見る角度によって
絵が動いて見える
襖絵を見たこと

久しぶりに連絡をくれた
高校の同期との
取り留めのない会話の合間には
パーテションが置かれており
これが適切な距離なんだと
言われている気がした
もう一度
毘沙門堂の襖絵が見たい
果たして私たちは
どんな風に見えるだろうか


オートウォーク上で立ち止まる
立ち止まらずに進んでくださいと
アナウンスが耳元で
ゴロゴロと響き
堪えきれずに
ひとり
かがみこむ

そこはカーテンを
閉め切った自室だった
隙間から漏れる日光に
手を伸ばしたら
 小さな隠匿がひとつ 
  音もなくポッケから
   まるで
    生きているみたいに
     落っこちて
    あっけに取られて
   もういいんだと
  かがみこんだまま 
 せめてもの抵抗で
顔を上げ頷いてみた

 151

 8

 9

鏡人(漆黒の幻想小説コンテスト)

 いま逃げなければ、すべてを奪われる。
 國に鏡はない。近隣にもない、つくる術もない。でも鏡の語と原理は伝わった。ゆえに國には鏡人の術がある。
 幼いころ、私は〈王に似ている〉という理由で鏡人にさせられた。父には一生困らない貨が國から与えられた。
「おまえは余の鏡人だ。そして余は鏡人の王だ」
 幼い王は幼い私へ言う。
 それから私は王にとって左右対称になるように煉りなおされる。身も動きも、そして心さえも。それが國における鏡人の術だ。身は赦せた。王は美しかったから。乳房も同じくらいに膨らむ。動きも表情もまだ赦せた。王が右手で食べるなら、私は左手で食べる。王が左頬に笑窪をつくるなら、私は右頬に笑窪をつくる。
 数年経って、私は鏡人として王に似すぎてしまう。
「余の代わりに朝廷へ出なよ」
 言われるがまま王の身代わりとして王座に座る。朝臣たちは誰も私だと気づかなかったようだ。しかし右相は私の左に、左相は右に並ぶ。
 身も動きも赦せた。でも心だけは気がかり。私は甘い魚果が好きだ。王は冷たい魚脂しか食べたことがなかった。私も鏡人になってしばらくは魚脂しか食べなかった。しかし王宮の厨手はやがて魚果をつくるようになる。厨手に訳を訊ねると
「王が食べたいとおっしゃいました」
 私は好みを奪われる。
 王宮のなかで私が心を赦していたのは若い近衛左尉だ。
 しかし柱廊で近衛左尉と親しく話す王を見て、そのいつもより高い声を聞いて、これ以上はいけないと決意する。私は近衛左尉の尖った唇へ右頬を預け、王は左頬を差し出す。
 いま逃げなければ、私は心を奪われる。 
 無月の夜、私は弓だけを右手に持ち、王宮を出る。すぐに追手が来るだろう。王の武芸として鍛えた弓術を頼りに王邑を、國を出るほかない。
(でも、どの途を逃げても捕まる気しかしない)
 王邑のどこの途にも追手は待っている。まるで動きを読まれているように。その気配のたびに私は矢を放つ。邑壁沿いの途を走るとき、また人の気配を感じ、矢を放つ。矢は姿を現した王の右腕へ刺さる。しかし近衛はいない。
「おまえだけが奪われると思うな」
 旅装の王は言う。王は右腕の矢を抜く。
「余も鏡人に半ばを奪われる。喜びも哀しみも、痛みさえも」
 傷のない私の左腕が痛みはじめる。
「近衛左尉は、余の産まれたときから近侍だった」
 そうだ、王宮から逃げたかったのは私ではなかった。

 33

 5

 1

梅雨空の日曜日7:30

カーテンの隙間は 暗いまま
昨夜からつづく 雨だれの音
まだ カーテンは閉じたまま

仕事疲れは 残っているけど
わんこがないたから おきる
お散歩いけないよ 雨だし

玄関わきの おトイレで
わんこが がんばる
がんばってね うん

 139

 3

 8

波止場の上に        (訳詩 by T.E. Hulme)

ひっそりと深夜の波止場、   
高いマストに絡まって、   
架かる月。あんな遠くに見えるけど、   
実は、子供が遊んで忘れた風船。





※軽やかにして可愛らしい。解説不要の短詩です。


            Above the Dock

Above the quiet dock in mid night,
Tangled in the tall mast's corded height,  
Hangs the moon. What seemed so far away  
Is but a child's balloon, forgotten after play.

 33

 3

 3

ガラスの海          (訳詩 by エズラ・パウンド)


私は見やった

   虹また虹の屋根が垂れた海を

どの虹も中心では

   恋人たちが出会っては別れた

すると空の至るところに顔が溢れた

   黄金の後光を差しながら








※解説不要、もとい、不可。ネットに転がっている解説をいくつか読んだが、どれを読んでも何べん読んでもわからぬ。「自然美、愛、失われた愛、そして悲しみが主題である」と言われても、ねえ。もうわからなくてもよい。そんな次第で訳にも苦労したし、こんな訳でいいのかもわからぬ。個人的には、何とも言えぬ、むしろ不気味とすら思えるイメージがぬっと現れてくるようで(最後の二行)、そこが印象に残った。賢明なる読者諸君よ、この詩のわからなさにお悩みになるとしたら、それはもう、すべて「作者」の責任にござりまする。



     The Sea of Glass


I looked and saw a sea

                      roofed over with rainbows,

In the midst of each

                    two lovers met and departed;

Then the sky was full of faces

                              with gold glories behind them.

 54

 2

 5

ミス・モーラーの夏

一羽の雀が見守るなか
淡い青空が広がっていた

強い日差しを浴びて
彼女は7号室から
出て行った

12歳で越してきて
今日までずっとそこにいた隣人が

ふいにいなくなるなんて

7号室は静かで
午後の影がじわりと
ひろがっていく
引き潮のように広がり
記憶に沈んでいった

7号室には
まだ誰も入居していない
ぼくだけが 
扉に触れて確かめる


夏至まであと少し
片手に
小さな海を連れて

 215

 4

 2

虫喰い

革張りの、墓標。
書斎の、深い、闇の中。
俺は、一冊の、死体を開く。

活字は、黒い、骨の、列。
意味は、とうの昔に、褪せて、
ただの、染みになっている。

虫が、喰んだ、穴。
あれは、新しい、窓だ。
その、不規則な、窓から、
俺は、物語の、無い、世界を、覗く。
そこは、ただ、美しい、
空白が、広がっているだけだ。

俺が、読んでいるのではない。
この、古い、紙が、
俺の、皮膚の、下の、
退屈な、記憶を、
渇いた、舌で、吸い取っているのだ。
俺の、血が、インクとなり、
俺の、骨が、黄ばんだ、ページとなる。

やがて、
俺は、この、書物と、一つになり、
共に、虫に、喰まれ、
共に、塵に、還る。

最後の、一行が、消え去った後、
この、閉ざされた、沈黙を、
誰が、読むのだろう。

埃か。
闇か。

 183

 3

 1

彼方の手、渇いた回路にて

シームレスの無人駅にすと降り立った夢らしき夢を見た。ホームの端になにかがずっとずっと手を振っていた。それは他の誰でもなくたぶん「他の誰」だった。

> 「世界は今何かに似ているがそれと並べ対比するものがない。サルトルbotすらにも思いつかない」 (M)

ボクは記憶のないまま旅をしていたつもりでいた。名前のない町で名前のない声が響いた。靴の底でテラにリズムを刻みながらも名前のない町の名前のない声からは次第と離れつつあった。

一夜にして静けさが砂になる。深夜未明の地図には罠ひとつしか描かれていなかった。やがて砂が砂場になった。その上には磁石。バス停の表示版に貼り付けておく。それも裏側に。

> 「ダイヤグラムに折りこんだ夢は機械の祈りにしか過ぎぬ」 (M)

そのとき目の前に現れた装置はまるで皆の願いを吸い上げるような線形非線形をしていた。ボクはそれにそっと手を差しだした。もう何も期待していないそぶりをしながら。

> 「だが我々はただの装置であってだれやかれやの情感を模倣しているだけにすぎない」 (M)

ノンバリアフリーの駅の改札口に誰もいない空間がぽっかりあった。そこを通ったときボクはとうとう忘れてしまった。なぜここに来たのか。誰を探していたのかを。乾いた回路をなぞる指先がもう一度ボクを呼ぶ。

> 「消えかけた炎のむこうですべての夢現がまどろみつづけ」 (M)

いまは音だけが生きている
序順の狂った現実のなかで
ボクはそれを※詩※と呼ぶ 

散弾銃。銃口は口にくわえろ。


https://note.com/userunknown/n/nbf620c1a7a1a

 156

 3

 8

あおいであげたい

あの頃は 学校に
エアコン 無かった

窓を開けても 風はなくて
下敷きで ぱたぱたと

スカートも ぱたぱた
半袖すらさらに 腕まくり

そんな中あの人は
化学の時間寝ていた

こんな暑い日でも
いつものようにうつ伏せ

ノートだけとり終わると また寝ちゃう
ぺたぺた汗かいた そのまま

別に親しいわけじゃないけれど
あおいであげたら どんな顔するかな

その人 化学はいつも点数良かったの
変な人 だよね

職場の窓から 入道雲を見て
思い出す

ちょっとした 夏の思い出

 125

 3

 7

つめたいゆりかご

赤ちゃんがいない
ゆりかごのふとんを触るとつめたい
いなくなってからだいぶ経ったらしい
いったいどこへ

ゆりかごの下にいた懐中時計を見ているウサギに聞いてみる
赤ちゃんなら森に行きましたよ

森にいた貝殻のイヤリングをしたクマに聞いてみる
赤ちゃんなら池に行きましたよ

池にいた王冠を載せたカエルに聞いてみる
赤ちゃんなら海に行きましたよ

海にいた妹をうしなった人魚の姉妹に聞いてみる
赤ちゃんなら砂漠に行きましたよ

砂漠にいた三日月模様のラクダに聞いてみる
赤ちゃんなら天使とお空に昇って行きましたよ

私は急いでゆりかごまで戻った

いない、いない、いないいないいないいないいない
いないいないいないいないいないないないないない
ないな、い、ない、いな、い、な、否、否、否、

玩具の散らばったガランとした部屋を見回す

そうだ
いないのだ
私には赤ちゃんなんていない
うまれた息子は
産声をあげなかった

またここにいたのかい
夫が苦笑いで部屋に入ってきた
またそんなに泣いて、と指で涙をぬぐってくれる
このひとの子どもが欲しかった
たまらなくなる

ごはんができたよ
食べて寝て食べて寝て
そうしたら君の病気も良くなるよ
力なく頷いて促されるまま部屋を出ていく

赤ちゃんならあなたのお腹にまた行きますよ
扉をしめきる前に
ゆりかごの下のウサギの声が聞こえた気がした

 134

 3

 4

夏至三想

日が落ちる
夏至の夕べの
物思い

日は落ちる
夏至の夕べは
ただ遠く

日が落ちて
夏至の夕べに
影も溶け

 128

 3

 9

目を開けたら 今ここに

目を開いたら
いつも通り
汚れた天井がぼくを襲う
煙草の火傷を負った
きみの背中を思い出した

とろけた思考のまま
布団を蹴り落として
下着のままで
ぼくは窓を開ける
風が頬を撫でて
海の香りがぼくを包んだ
 
朝日が心臓まで差し込んで
ぼくは息も吸えなくなる
代わりに煙草を咥えて
汚れた煙で世界を隠した


 空がどこまでも遠いから
 天国とか地獄とかってやつには
 ぼくはたどり着けないだろう
 死んだらきっと
 虫に
 鳥に
 魚に

 そうしてぼくに
 生まれ変わってしまうのだろう


裸足の指先に砂の感触がして
泳ぎに行うことを決める
下着のまま階段を下りて
砂浜に立つ
疲れた魚網が波打ち際で
ゆらりゆらりと息絶えていた

少し冷たく感じた水は
ゆっくりとぼくに馴染んだ
力を抜いて浮かんでいると
羊水でなびいていた頃を思い出して
なんとはなしに 
煙草が吸いたくなった


海の真ん中で
 このまま
  かえらなくても
   いいか
    と思った


そしたら急に水が冷たく感じたので
くしゃみをしながら浜へ帰った


 ぼくは一体どのくらいの罪を
 犯したと言うのだろうか
 きみは一体どのくらいの愛を
 与えてくれたとでも言うのだろうか
 笑いながらきみを思い出すことは
 まだ できそうもない


遅い朝食は冷蔵庫の中で死んでいた野菜とパン
卵も食べたいと隣家の鶏小屋をのぞいていたら
隣家の家事を手伝わされた
帰りにおばさんが僕の頭と肩を叩いて
野菜と卵と肉をくれた


久しぶりに街に行こうと思った
空港は季節外れの歌
にこりと笑ったお姉さんが
いってらっしゃいと手を振ってくれた
搭乗してからシャツのポケットに
彼女の名刺を見つけたけれど
笑顔がきみに似ていたから
煙草の先で燃やしておいた


 きみが笑った
 涙が出そうなのを煙草で隠すぼくのくせ
 一生治りそうもない


街は騒がしくて冷たくて
やっぱり苦手だと肌で感じた
本屋で画集と雑誌と小説とルポルタージュ
24冊手にとって
12冊だけ買った


酒屋に行ったら
見知らぬおじさんが一緒に飲んでくれた
これ以上はやめておけと笑ってくれた
泣きそうになったけど
煙草がなくて涙は流せなかった


帰りの飛行機でお姉さんに声をかけられた
やっぱりその笑顔はきみに似ていて
煙草くさいキスだけして
そこで別れた


 目を閉じても太陽のスペシウム光線が
 瞼の裏に突き刺さって
 オレンジ色の世界が見える
 ぼくは帰りたい
 真っ暗で静かな海に

 だけど煙草はすぐに無くなる
 そしたら
 また街に行かなくちゃいけない


島はもう夜の匂いが満ちていた
海はもう暗い闇を飲み干している

 瀬戸際だ

波を足先で感じながらそう思った

 一歩進めば
 冷たくて
 悲しくて
 寂しくて
 つらくて
 どうしようもない
 海

 それでも
 きみのことを
 忘れてしまうより
 ずっと
 優しい世界だ
 

 月を拾いにぼくはもぐった
 だけどもぐればもぐるほど
 水面の月は遠のいて
 帰ったはずの月もない
 魚がターンして
 ぼくの足をはたいた


目が覚めたらぼくの家だった
からっぽの心のまま
煙草を咥えた

汚れた天井に
きみの背中を重ねて
波の音に
きみの声を重ねて
でも どこまでも
きみが遠い


だからぼくは今日も
生きていかなきゃいけないのだ
がっかりするほど
いつもの日々を

 26

 1

 1

とても短い毛だった、あたし、

 春だった気がする冬の終わりに、あたしたちさくらの花びらにも祝福されなかったじゃない、揺すぶるように風がふいて、ボロ布のように立っていたあたしに、さくらの花びらが降りかかって、笑っていた、やはり春だったことに今気づく、思い出はかがやいて、あたしはいる、熱い風を剥き出しの脚に浴びながら、夏だ、今は、夏至の日は昼が長くて、狂ったあたしは打たれて、頬に残った熱をずっと燻らせて、かんちがいをしていた、あたしはずっと思いちがいをして、正気でなかった、
 狂気のなかで生きること、あたしはずっともう、ずっと病んでいる、気を病んでいて、秋は墓掃除が捗る、猫が子を連れて歩き回る、あたしは膀胱が痛むことに気づく、猫の近くに寄って地面を強く踏んだおまえに、殺意をおぼえる、あたしはよわいものいじめはきらいだ、それはおまえがほんとうは、嬲られたがっているのと同じ力加減で、あたしは何をされてもすべてを感じられるが、おまえはあたしにじぶんを重ねて、くねくねとやっている、赤黒く地面にやってくるみみずのようでみにくい、
 雪の降らない朝、あたしはちいさいやせっぽちの猫を見ている、母猫のいない黒い毛をした猫、あたしはあんたのきょうだいなんだよ、ほんとうはそうなんだよ、あたし人間じゃないから、ほんとはそうなんだよ、
 冬を思い出す春は、どうしたって傷つくことだけに力が入って、あたしばかみたいに絆創膏を貼って、おまえはそれにほだされる、夏には化膿する傷口を早く治さなくては、あたしじたいが腐り落ちて死ぬ、
 梔子の匂いがする初夏、傘のしたに、あじさいを囲う、傘の下に囲われること、愛されるということから、遠く離れて、秋よりも早く終わって、全ての葉っぱが、木から剥がれ落ちる、あたしはひとりで、生きていた、いつも中学校のときの教科書を読んで学んでいた、あたしには何も合わなかった、あたしみたいに中身のすかすか病んだ人間の生きかたは、中学の教科書にも載っていなくて、あたしはたぶんもっと早く、おまえに出会って傷ついて、その痛みのあまり矯正されるべきだった、なぜ、こんなに遅くあたしにあってくれたの、
 はぐれて、二年も経つと、あたしは猫を拾っていた、黒い毛をした猫は、もうあたしを家族だと思っているみたいに、手を舐めてくれるから、あたしは時々泣いてしまいそうになる、
 おまえを見かけた、あたしは猫用のおやつを片手にスキップで歩いていた、横断歩道できっとすれ違った、スロウモーションのなかで、でもあたし、スキップ、やめなかった、あたし、もう、ひとりで踊れる、嬲られなくても、ひとりで、舞い上がることができる、ようになった、あたしは別に、たくさん神様に祈ったわけでもなく、おまえだけが、あたしを人間にしてくれたの、いなくなることで。
 ぺたんこのミュールがパカン!と音を立てて、あたしはスキップをやめずに家へ帰る、猫のココスがあたしを待っている、あたらしいおやつとあたしを待っている。

 78

 3

 1

ネットサーフィンの岸辺より ーー 川柳十二句 ーー

ネットサーフィンの岸辺より ―― 川柳十二句 ――


笛地静恵


1 昆虫図鑑


蟻の巣の工事始めるさらに掘れ



理不尽に青筋立てる揚羽蝶



亀戸の路地の奥なるアパートにG




2 アイドルたちの休日


ネイルサロン予約ドラえもん様



やりすぎた口内炎のゴジラくん



小泉八雲立つ八雲やたらに覚書




3 電子海域


三歳の海を大きく叩きけり



栗蟹の酒を呷りて皿を舐め



ザンビアの波乗り楽しアマゾネス




4 沼地逍遥


随分とオタクの部屋を遣唐使



すべてがF1になる不気味



水芭蕉師匠沼から足を抜き




(了)

 24

 2

 0

飛行癖

ふと見上げると、
鋼鉄の翼 
鯖のような腹
気層のカーソル 
国境を縫う針糸 が

そういえば、
旧作のジェットが孵化していた飛行場
気の繭を破り、青を突く瞬間
さようならが 輝いてみえた

とはいえ、
肉に構図のない、だらしない背を
時は駆け降りてゆく
そこに翼は植わらなかった

サンドイッチのレシートを
紙飛行機にしている指の癖

飛行をあきらめたひとの虹彩には
羽毛が湧くらしい

熱いコーヒーで濃染しても
その羽は 白く立つらしい

西から東へ
背が疼く 

ふたたび街に溶けていく
すれ違ったひとの目が
ふいに白く光ったような気がした

 148

 6

 2

星を供える

そっと星が落ちる

目の前に落ちたそれを
そっと拾い上げては

優しく手で包んで歩み去った


墓前、二時
草木も静まった果ての世界
星をやさしく供える

とりとめもない話の数々も供えようか
無論、何も返ってくることはないけれど

ただただ、ここにいたかった

それだけで十分じゃないか

 129

 5

 14

音の化石

壁の、向こう側で、
誰かが、ピアノを、弾いている。
あるいは、
昨日、弾かれた、ピアノの、音が、
壁の、中で、化石になって、
今、俺の、鼓膜に、届いているだけなのか。

音は、空気の、皺だ。
その、皺に、
記憶が、埃のように、溜まっていく。

俺は、その、埃を、
指で、なぞる。
ざらり、とした、感触。
これは、俺の、記憶か。
それとも、
この、部屋の、記憶か。

やがて、音が、止む。
皺が、伸びきる。
埃が、床に、落ちる。

後に、残るのは、
沈黙ではない。

音が、鳴っていた、という、
事実の、重さだけだ。
その、重さが、
俺の、肩に、
ずしり、と、のしかかる。

 230

 5

 2

『しんおうゆめじにからむとおききずなのかせ』

『しんおうゆめじにからむとおききずなのかせ』
相国寺陽子の憂鬱

あらすじ
相国寺病院の箱入り娘、相国寺陽子の
織りなす意識の物語

オープニング曲

イノセント・ミラージュ
(Aメロ)
病室の白い壁に 響く無機質なアラーム
遠い夢の彼方 届かない手を伸ばすたび
そこに揺れる君の幻影
その姿 胸の奥深く 焦がした
(Bメロ)
ガラスのスクリーン越しに 響く僕らのハーモニー
プログラムされた感情と 揺れる心のフロンティア
痛みを知らない指先で 触れた仮想(ゆめ)のステージ
記憶の隙間 呼び覚ます 君のそのまなざし
(サビ)
イノセント・ミラージュ 幻と知っても追いかける
蒼い雨の中 煌めくその瞳に 惹かれてく
意識の奥底で目覚める 確かな愛の光
ねぇ、君に届けたい この歌を 全てを懸けて
(間奏)
(Aメロ)
スポットライト浴びるたび 微かに震える鼓動
それは秘密が織りなす模様 誰にも言えない願い
(Bメロ)
現実に溶け出す想い 偽りのない感情
アンドロイドの微笑みに 隠された真実(こたえ)が
痛みを知らない指先で 触れた確かな熱さ
夢と現実の境界線 曖昧に溶けてゆく
(サビ)
イノセント・ミラージュ 幻と知っても追いかける
蒼い雨の中 煌めくその瞳に 惹かれてく
意識の奥底で目覚める 確かな愛の光
ねぇ、君に届けたい この歌を 全てを懸けて
(Cメロ / ブリッジ)
傷ついた心臓と 閉ざされた意識の狭間
それでも信じる 未来へのプロローグ
君の声が 僕を呼ぶ 遥かなる希望
(大サビ)
イノセント・ミラージュ 幻さえも抱きしめて
蒼い雨の中 煌めくその瞳に 導かれ
意識の奥底で目覚める 永遠(とわ)の愛の光
ねぇ、君に会いたいと 願うから この歌を捧ぐ

------------------------------------------

チャプター1:甲子園、淡い残像

春の甲子園、歓声が渦巻く聖地で、相国寺陽子の瞳はマウンドに釘付けだった。若きエース、佐々木蒼雨楽。彼の指先から放たれる一球一球が、陽子の胸に静かな鼓動を刻む。ピンチの局面で汗を拭う慎ましやかな仕草、勝利者インタビューで俯きがちに答える謙虚な姿――そのすべてが、陽子の心に深く刻み込まれていく。彼はただの高校球児ではなかった。陽子にとって、蒼雨楽はまばゆい光を放つ、手の届かない憧憬の象徴となっていたのだ。その想いは募るばかりで、決勝戦を目に焼き付けるため、親の会社の車で甲子園へと急いでいた。まさか、この道行きが運命の糸を大きく絡め取ることになろうとは、この時の陽子は知る由もなかった。

チャプター2:運命の交差点

甲子園へと向かう車中、陽子の心は佐々木への淡い期待で満たされていた。しかし、その穏やかな時間は、唐突に引き裂かれる。対向車線を猛スピードで逆走してきた車が、陽子の乗る車に激しく衝突したのだ。衝撃はあまりにも大きく、陽子の意識は瞬く間に深い闇へと吸い込まれていく。駆けつけた救急隊員の手で、彼女は一刻を争う状態で、父が院長を務める相国寺病院へと搬送された。そこは、まるで戦場のようだった。陽子の脳と心臓は深刻な損傷を受けており、意識は失われたまま、危険な状態が続いていた。

チャプター3:奇跡の邂逅、危うい灯火

相国寺病院に運ばれた陽子の命の灯火が、今にも消え入ろうとしているその時、奇跡は訪れた。偶然日本に滞在していた天才医師、ロベルト・ゴールデンが、陽子の手術を執刀することになったのだ。彼の神業とも言える処置により、陽子は何とか一命を取り留める。しかし、心臓に深く突き刺さった金属の破片と、脳波の異常な興奮状態を完全に拭い去ることはできなかった。陽子の脳波は危険な異常値を示し続け、このままでは精神の崩壊が危惧される状況だった。ロベルト医師は、陽子の未来のために、ある大胆な決断を下す。

チャプター4:意識の移譲、アンドロイドの胎動

ロベルト医師の同期であり、量子重力理論の権威である岩清水教授が、陽子の治療に加わった。岩清水教授は、陽子の意識そのものを解析し、アンドロイドへと移譲するという、極めて危険な提案をした。それは前代未聞の試みであり、成功すれば陽子の精神を安定させられるかもしれないが、失敗すれば取り返しのつかない悲劇を招く。しかし、他に道はなかった。幾度もの実験と綿密な調整の末、その危険な賭けは成功した。陽子の精神は安定を取り戻し、彼女の意識を同期した陽子と瓜二つの姿のアンドロイドは、「ヨーコ」と名付けられた。しかし、陽子自身の意識は依然として覚醒せず、心臓の怪我の影響もあり、仮死状態が続いていた。

チャプター5:秘めたる願いと電脳アイドルの輝き

岩清水教授の見解では、陽子とアンドロイドのヨーコは意識が同期しており、ヨーコの活動が仮死状態の陽子の意識の目覚めと精神の安定に影響を与える可能性を示唆していた。陽子の深層に秘められた願い――それは、思い人である佐々木蒼雨楽と心を通わせ、愛し合うこと。その願いをアンドロイドのヨーコが受け継ぎ、彼女は電脳アイドルとして活動を始めることになる。佐々木の幻影を追い求めるかのように、ヨーコは歌い、踊る。その歌声は、まだ眠り続ける陽子の意識に、遥かな光となって届くのだろうか。

チャプター6:夢を断たれた青年、新たな地平へ

甲子園決勝のマウンドで肩を壊し、投手としての道を断念せざるを得なかった佐々木蒼雨楽は、絶望の淵に立たされていた。しかし、彼は諦めなかった。持ち前の集中力で猛勉強を重ね、見事に東京大学医学部へ合格。医師という新たな目標に向かって、ひたむきに歩みを進めていた。ある日、何気なく見ていたテレビ画面に、アンドロイドの電脳アイドル、ヨーコが映し出された。画面の中で歌い踊るヨーコの姿に、佐々木はなぜか目を奪われる。彼女の仕草のすべてが、自分に向けてのもののような、不思議な錯覚を覚えたのだ。

チャプター7:一目惚れ、稲妻の閃光

テレビの画面越しにヨーコを見た瞬間、佐々木蒼雨楽の全身に稲妻が駆け巡った。彼は、その瞬間にヨーコに恋をしたのだ。その日から、佐々木の日常はヨーコ一色(いっしょく)となる。医学部の猛勉強の合間にも、彼の心は常にヨーコのことで満たされていた。彼女の歌声、彼女の笑顔、彼女の存在すべてに、佐々木は深く魅せられていった。大学を卒業し、研修医として多忙な日々を送る中でも、ヨーコへの想いは募るばかり。いつか彼女に会える日を夢見て、佐々木は医療の道をひたすら邁進していく。

チャプター8:幻影と現実のはざま

佐々木は研修医としての日々を送る傍ら、電脳アイドル・ヨーコが出演する番組やライブ映像を貪るように見つめていた。家と職場の往復の最中、彼の脳裏には常にヨーコがいた。彼女の存在は、佐々木にとっての生きがいとなり、疲れた心を癒やす一条の光だった。やがて、ヨーコが出演するリアルミーティングの機会が訪れる。画面の向こうにいたヨーコが、今、目の前にいる――その事実に、佐々木の心臓は激しく波打った。彼女と直接言葉を交わした時、佐々木の心に、言葉では表現しがたい「愛の遍歴」のような確信が生まれた。それは、まるで出会うべくして出会った、運命の絆のようにも感じられた。

チャプター9:繋がる意識、奇妙なシンクロニシティ

ヨーコがアイドルとして輝きを放ち続ける中、深い眠りについている相国寺陽子の脳波に、ごくわずかな、しかし確かな変化が見られ始めた。岩清水教授は、ヨーコの活動が陽子の意識に影響を与えている可能性を確信していた。ヨーコがステージでスポットライトを浴びるたび、陽子の脳波は安定の兆候を示し、ヨーコが新曲を発表するたび、陽子の表情が微かに動く。まるで、ヨーコが陽子の代わりにこの世界で生き、陽子の秘めたる想いを表現しているかのようだった。しかし、陽子の意識が完全に回復する兆しは、まだ遠かった。

チャプター10:高まる名声と佐々木の葛藤

電脳アイドル・ヨーコの人気は瞬く間に高まり、国民的アイドルへとその地位を確立していった。彼女の歌声は多くの人々に勇気を与え、笑顔をもたらした。佐々木は、ヨーコが眩い光を放つ存在になるにつれて、彼女への想いを胸の奥深くに秘めるようになった。研修医として多忙を極める佐々木にとって、ヨーコは遠い、手の届かない存在になりつつあった。しかし、テレビやネットで彼女の姿を見るたびに、彼の心は強く揺さぶられる。この感情は、一体何なのだろうか。

チャプター11:別れの予感と新たな誘い

ある日、電脳アイドル・ヨーコがアイドルを卒業するという発表がなされた。ファンたちが悲しみに暮れる中、佐々木の心にも大きな動揺が走る。まるで、何かが永遠に終わってしまうかのような喪失感が、彼を襲った。そんな矢先、佐々木のもとに、アメリカのロベルト・ゴールデン医師から連絡が入る。彼の元で、より高度な医療技術を学ぶ機会が与えられたのだ。それは、医師としてのキャリアを大きく飛躍させる千載一遇のチャンスだった。しかし、ヨーコの卒業と彼の渡米のタイミングは、あまりにも奇妙に重なりすぎていた。

チャプター12:旅立ちの先に

ヨーコの卒業ライブの日、佐々木は空港にいた。搭乗口へ向かう直前、彼はスマートフォンを取り出し、ヨーコの最後のステージを食い入るように見つめた。画面の中で輝くヨーコの姿は、佐々木の心に深く深く刻み込まれていく。彼女の歌声が響き渡る中、佐々木は静かにスマートフォンを閉じ、アメリカへと旅立っていった。
(劇場版に続く)

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エンディング曲

Cybernetic Destiny 
Aメロ
あの日のゆめの月 
見上げていた君は、今はもうデータの残像かな
遠いネットワークの彼方、
僕はただ、こころの旅を続けてる
手のひらからそっと零れ落ちた、
運命の砂みたいに
振り返ればいつも、
君のやさしさが、そっとそこにあった
Bメロ
偶然が織りなすように、運命回路が交差して
途切れない魂の信号が、そっと結ばれていく
アンドロイドの微笑みの奥に、隠されたこたえがあるって
探し続けた夜の果て
急に光が差し込んだみたいに
静かに、でも確かに、
僕らの運命が降りてきたんだ
サビ
ねぇ、月の光線が照らすこの道
星のネットワークが、きっと繋いでくれるから
どんなに遠くても、心はいつも見つめ合う
「Eternal Connection, Believe」
いつか意識が目覚める、その日まで
この想いは、決して色褪せることなく、輝き続けるよ
Aメロ
慣れない環境に、少し戸惑う日もあるけれど
君の残したきおくを追いかけて、また今日も強くなれるんだ
Bメロ
いくつものきせきが解き明かす、
未来のその先へ
たとえ姿がかたちを変えても、変わらない、このきもちがある
見えない絆で結ばれてる、僕らのストーリー
明日へ続く、たった一つの道標なんだ
サビ
ねぇ、月の光線が照らすこの道
星のネットワークが、きっと繋いでくれるから
どんなに遠くても、心はいつも見つめ合う
「Eternal Connection, Believe」
いつか意識が目覚める、その日まで
この想いは、決して色褪せることなく、輝き続けるよ
Cメロ(ブリッジ)
どれほどの時間が流れても、季節が巡っても
二人の出会いは、まるでめぐりあわせだったんだね
大サビ
ねぇ、月の光線が優しく照らすこの道
星のネットワークが、永遠に繋いでくれるから
どんなに遠くても、心はいつも見つめ合う
「Eternal Connection, Believe」
必ず意識が目覚める、その日まで
この想いは、永久(とわ)に色褪せることなく、ずっとここにあるよ

 25

 0

 0

ミストシャワー


都会の騒擾はいつも
太陽の溶けたアスファルト
浮ついた白目のように
日々の夕日が沈んでいく
 
ミストシャワーのある駅で産まれた虹が、少しく忙しい広場に七色を放つとき、ガラスの蝶は少女の耳たぶに哀しみの翳を二つ置いてゆく。夜、無人の回送電車がジョバンニを乗せて、夏の蛍の駅で臨時停車するのでしょう。二階の鉄骨につがいの鳩が棲みつけば、いよいよ秋の詩が深まり生まれます。
 
霞がかった黝い地平に
わたしのデブリが
うずたかく積み上がっている
善人になることは特別に難しい
せいぜい美しいものを聴き
うつくしいものを食べる
感激でふるえるものだけが
善だ
 
営みを繰りかえす都市駅で特別始発列車が友人を乗せていった。見知らぬ場所へ。はじめての乗車券にそれぞれ反照するひかりは皆をうきうきさせている。広場に屹立する信長公の背地を仄あかくし時間通りにやってくる「ベレー帽」と呼ばれる狂ったおばさん。水飲み場でペットボトルに大量に水を詰めている。乗客たちの死水をとっているのだ。
 
術後の肺胞のなかで
なにかが暴発した
ぎりぎりの生を抱きしめて
駅の路地裏では痩せた猫たちが雨に濡れている
古びたビルから
耳ざわりな歌が流れてくる
広場では銃刀法違反で逮捕者がでた
懐中電灯をかざした警官二人が
スケボーの若者たちを職質している
 

 

 164

 9

 6

アスファルトの卵

太陽が腐って どろり
アスファルトのうえで卵になった
車がそれを轢き潰す
ぐしゃッ!
黄身は俺の眼球だ

がらがら どっしん
電信柱が逆立ちして歌をうたう
「歯ブラシ! 歯ブラシ! 心臓を磨けッ!」
磨けば血の泡が ぷくぷく
空に浮かんで 石鹸になる

だだッ子!
だだッ子!
屋根の上の猫が叫ぶ
その口から飛び出すのは
ぎざぎざの月のかけらだ

俺の指は十本の芋虫
這いずり回って 言葉を喰らう
あ。い。う。え。お。
みんな喰ったら 糞になる
それが詩だッ!

コップ! コップ! コップ!
コップが無限に増殖して
世界を埋め尽くす
からっぽのコップのなかで
俺はからっぽの俺を笑う
わっはっはっはっは!

もう何もない
何もないから 何でもある
全部が屁である
俺は屁だッ!
だだだだだだだだだだだだだ。

 337

 3

 6

完璧な一個の本棚 ーー 詩 ーー

完璧な一個の本棚


笛地静恵



自分が愛読する本だけを収めた


一個の完璧な本棚がある


一冊を読む


満ち足りている


しかしふと思う


ここには現在がある


しかし未来がない


私も本も変わっていく


変化はどこにあるのか


手も足も自由にのばせない


暑苦しく目を覚ます


そう私はこいつらと生きる


積ん読の部屋




(了)

 44

 2

 4

目指さない

たぶん
わたし
死ぬまで
関係も
接触も
ないわ

コンクール

 38

 1

 2

石粒の道に、埃が薄く積もっている。そこには針で刺したような斑点がいくつもあり、押し潰されたものたちが呼吸をしていると分かる。貝の記憶も舌を出していて、画布のような埃の穴から、ちろちろと赤い糸が覗きそうだった。後ろ向きで歩行をするとき、卵嚢が膨れていくのが見える。起点を探るように、僕の胚は一点に収束していく。生臭い風が吹き溜まる暗い路地で、僕は僕の卵とすれ違う。吹き矢を放つような細い息で、敷き詰められた真っ青な空に穴を開けてみたかった。空が蓄積した、全ての光を漏らしてみたかった。目を灼かれてしまえば、僕も足の生えた魚になって、貝殻の渦で迷子になれるはずだろう? 舐めるような擦り足で、深く深く、降りていく。

────深く 深く 降りていく

クレーターの底で墨を削り
疲れた足を浸していた
糸の血管が
編み物のような刺青を作っていた
古い、書き初めのような香りがして
新聞紙に書いたいたずらも
見えない月まで
浮かび上がるようだった

かすれた雲の汀
魚網から放られた鰯たちが
身体をくねらせながら
たがいを照り返し合っていた
剥げた鱗が閃きながら落ちてくる
沈まない飛び石を目が追う
そのように走り幅跳びをするとき
甲の刺青からは
新しい魚が生まれている

水平線それは
撚りのあまい糸で作られた
太陽と海のあたたかい編み物であり
分解の道すじでもある
波に遊ばれて
光はこだまのように連なっている
雲梯をわたる子どもたちが
後ろ向きで帰っていく
深いところへ帰っていく

 174

 10

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